コラム

勤務中の送別会準備に、大阪府が「厳しすぎる」対処をする理由

2019年07月30日(火)15時45分

知事が異例とも思われるほどに厳格な対応をしたのは、この問題がニュースになると、都構想という考え方そのもののイメージダウンになるのを恐れたのだと思います。報道によれば、問題の送別会は、中野氏サイドの都合がつかなくなったという理由でキャンセルされたそうです。

ということで、この事件は単に「社内の飲み会の準備は業務か? 業務外か?」といった働き方の問題ではなく、都構想を進める上での、いわば派閥抗争のようなものであると考えられます。

このニュースに関しては、そのように理解ができますが、仮に終身雇用制である地方自治体の幹部職員が、「税金から給料をもらいながら」派閥抗争を繰り広げているとしたら、これは問題だと思います。

だからと言って、選挙で当選してくる首長が交代して、新しい政策が民意の承認を得たにもかかわらず、自治体の幹部職員が従来のやり方をあらためず、一種の超然とした姿勢で業務を行なっていたとしたら、これも民意に反するわけであり、決して良いことではありません。

一つの考え方としては、政治任用、つまり首長とその指名する副首長だけでなく、もう少し実務レベルの幹部クラスにいたるまで、選挙結果を受けた首長が任命できるようにする方法です。そうすれば、無駄な内部での対立は避けられますし、民意が行政に反映することになります。

一方で、首長が決まって、幹部職員を指名できたとしても地方議会が動かなければ、政策は前へは進みません。この問題も、制度の設計として修正が必要と思います。大阪の都構想が典型であるように、これから本格的な人口減社会を迎える中では、行政の簡素化というのは喫緊の課題であり、既得権を抑制して必要な改革を進める局面は全国でより深刻化するからです。

その意味では、大阪の都構想が2010年の発表以来9年を経ても、まだ実現できないなど、衰退の加速に対して改革が追いつかない印象もあるわけです。私は、維新の会の持っている右派ポピュリズム的なカルチャーは支持しませんし、大阪の商都復権など産業構造転換の政策が全く進んでいないことには落胆しています。

そうではあるのですが、行政の簡素化というのは必要な政策であり、そのような政策がいつまでも延々と時間がかかっているのは大阪にとってマイナスと思っています。今回の「送別会」騒動は、都構想とその反対勢力との抗争が、複雑化しているということを示しているのであれば、残念としか言いようがありません。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ハマスが人質リスト公開するまで停戦開始

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story