コラム

トランプ外交の方針転換は「正常化」の兆しなのか

2017年04月06日(木)17時45分

シリア情勢に関する外交方針は二転三転している Kevin Lamarque-REUTERS

<シリア・アサド政権の化学兵器使用疑惑をめぐって、トランプ政権が外交方針を180度転換。しかしこれまで異例だった外交方針が「正常化」に向かう兆候と考えれば、納得はいく>

今週4日から5日にかけて、「シリア内戦でアサド政府軍が化学兵器を使用か」というニュースが世界を駆け巡りました。5日朝には、例えば三大ネットワークの一つであるNBCテレビでは、中東特派員として長年シリア内戦を取材してきたリチャード・エンゲル記者が、「サリン攻撃の被害者とみられる人々を治療する様子」の動画を紹介しながら、事態の深刻さを解説していました。

これに関してトランプ大統領は、「オバマの弱腰な姿勢がこうした事態を招いた」という意味不明なツイートをしていました。意味不明というのは、つい先週、トランプ政権は「アサド政権のシリアには政権交代を求めない」という「新方針」を発表したばかりだったからです。

一方で、今週3日にロシアのサンクトペテルブルグで発生した地下鉄テロ事件に関しても、トランプ大統領は丁重なメッセージをプーチン大統領に対して送り、状況としては「トランプ=プーチン=アサド」という連携体制が強化されたような印象を与えています。

【参考記事】シリアの子供たちは、何度化学兵器で殺されるのか

この流れは、トランプ大統領自身が昨年の選挙戦を通じて主張してきた方針に沿っているものです。選挙戦の中では何度も、「シリアはアサドとプーチンに任せる」という発言が繰り返されました。それが「この政権の外交方針」だということが、賛成・反対の立場は別として、アメリカの政界やメディアの共通理解となっていました。

そこへ今回の「オバマの弱腰が招いた事態」発言が出てきたわけです。つまり自分はアサド政権を支持しておきながら、オバマ前大統領には「アサド政権を攻撃するべきだった」という非難をしているのですから、これでは激しい自己矛盾というか、意味不明としか言いようがないのです。

5日になると、その意味合いが段々と明らかになってきました。トランプ政権は、シリアのアサド政権への非難を開始したのです。これは、一見すると「矛盾の上に矛盾を重ねる」行動に見えます。確かに、「アサド政権を認める」という前週のコメント、そして「悪いのはオバマの弱腰」という発言、そして「アサド政権への非難」という格好で、短期間に発言がクルクル変わったのは事実で、一連の発言はお互いに矛盾しています。

ですが、これを「発言が矛盾している」のではなく、短期間に政権の方針が急速に転換していると考えれば、辻褄は合います。選挙戦から一貫していた、「シリアはアサド政権とプーチンに任せる」という方針を捨て、「アサド政権の退陣を求める」方向、つまり米外交をオバマの路線に戻すということです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story