コラム

消えたわけではない「ジャンボ・ジェット」

2014年04月10日(木)12時48分

 航空会社の戦略ということでは、現在は787という「航続距離が長く燃費の良い」中型機を直接目的地へ飛ばす方法が好まれ始めています。つまり、「ハブ・アンド・スポーク」という「主要なハブ空港間は巨大機で」大量輸送して、ハブから先は小型機に乗り継いでもらう(スポーク)という方法は、やや時代遅れになっているのです。

 また本当のハブ間大量輸送は、A380という超巨大機がどんどん活躍している関係で、「ダッシュ8」という大きさの機材は、そんなにニーズがないという解説も可能でしょう。例えば、ルフトハンザは「ダッシュ8」を積極導入しているほとんど唯一の大型キャリアですが、「フランクフルト=成田」のような幹線ではA380を使っています。

 ちなみに、日本でも全日空は、リーマン・ショックの前の段階で「A380かダッシュ8か」という次期大型機導入の検討を行ったことがあります。これは世界不況の結果として見送られましたが、現在も新たに機材更新を進める中で大型機材の導入も再度検討されているようです。

 但し報道によれば、2014年3月にその大型機材としては、今後開発される「777−9X」という現在のボーイング777型ファミリーの中で最も「長い」300ERを更に「長く」したモデルが選択されたそうです。全日空は既にこの「9X」を20機オーダーしたという報道もありますから、「ダッシュ8」が採用される可能性は少なくなったと言えます。

 そんなわけで、「ジャンボ」には「ダッシュ8」という燃料効率でライバルに引けを取らない最新モデルがちゃんと存在しているのです。今回の「退役報道」を見ていますと、ジャンボという機材は完全に過去のものになっていくようなイメージがあるのですが、ちょっと違うよというわけです。

 そうではなくて、「ダッシュ8」という最新型があるものの、超大型総二階建ての「エアバスA380」と、世界的に長距離機材として圧倒的なシェアを取るに至った「ボーイング777」との間で、「中途半端な」存在になってしまったこと、そして747シリーズのパイロットが世代交代の過程にあることなどから、各社の航空会社から「構想外」になりつつあるということです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story