スマートとトゥインゴ――国境を超え、異なる個性を放つ兄弟車
さらに、フォーフォーのバリエーションも復活して、BMWにとってのミニのブランド戦略に近づいたように感じる。そして、エンジニアリング的な視点からは、スマートがRRにこだわり抜いて、ミニを含めた小型車で主流のFFに対抗している点が面白いのだ。
2015年の秋に日本デビューした第3世代ルノー・トゥインゴ
一方で、筆者もかつて10年ほど乗っていたのだが、フランスはルノーのトゥインゴというクルマがある。1996年に発表された初代は、大胆なモノフォルム(ノーズからルーフ後端まで1つのマスとして捉えた造形)に象徴されるように空間利用効率を徹底して追求したデザインが特徴的だった。
トゥインゴ第1世代
当時は、ホンダの初代トゥデイとの類似も指摘されたが、高さを重視したトゥインゴと長さを強調するトゥデイでは、そもそもデザインの方向性が異なるというのが個人的な見解だ。駆動方式は、フランスで早くから実用化されていたFFが当然のように採用された。
トゥインゴ第2世代
残念ながら、その愛嬌あるクリーンで個性的なスタイルは、2007年に登場した第2世代モデルで失われ、凡庸でどこにでもありそうな形とディテールのクルマになってしまう。この反省に立ち、初代の楽しさやユニークさを再びトゥインゴにもたらすことを目標にデザインが進められたのが、2014年デビューの第3世代モデルだ。こちらも、2015年の秋に日本デビューを果たしたばかりである。
第3世代ルノー・トゥインゴ
リアのドアハンドルをブラックアウトされた窓枠に埋め込むことでスポーティな3ドアに見えるボディは、実は5ドアで乗降性を確保し、側面のキャラクターラインやリアのガラスハッチなどのディテールと相まって、初代とは異なるものの、再びアイコニックなデザインを作り出している。
第3世代ルノー・トゥインゴ
スマートと同じプラットフォームだが、異なる個性を打ち出した
一見、スマートとはまったくの別物に思えるが、実は同じプラットフォームを用いて構築された兄弟車で、これまでとは180度方向転換したRRの駆動方式に切り替わった。実際には、フォルクスワーゲン・ビートルも、フィアット500も、あるいはルノー自身の4CVというモデルも、往年の名小型車にはRRのものが多かったが、前2車の名を継ぐ最新モデルがすべてFF化された今、あえてRRを復活させるのは、かなり大胆な経営判断だったといえる。それでも最新技術によって蘇ったRRのトゥインゴは、第2世代モデルよりも全長が10cm短いもかかわらず室内長を33cmも伸ばすことに成功し、高い空間利用効率とキュートな外観を手に入れることができたのである。
しかも、スマートとトゥインゴでは、インテリアもまったく異なるテイストでまとめられている。ドライブ中にオーナーが目にする時間はインテリアのほうが圧倒的に多いわけで、ここの差別化が外観以上に重要なことを両メーカーの企画担当者はよく理解しているに違いない。
トゥインゴのインテリア
スマートのインテリア
メーカー間の共同開発車は、これまでにも例があり、特にヨーロッパでは、国々が隣接していることから少なからず試みられてきた。しかし、ディテールは変えていても、大抵は並べてみれば出自がわかるような成り立ちが大半を占め、極端な場合には、バッジエンジニアリングと揶揄される、車名のエンブレムだけが異なるような製品も存在した。
それらに対して最新のスマートとトゥインゴは、(一応)ラテン系の仏ルノーとゲルマン系の独メルセデスベンツという国も民族も異なる2つの大自動車メーカーがプラットフォームやドアミラーを共用しながらも、デザインを戦略的に使って明確な個性の違いを打ち出し、リアエンジン・リアドライブというメカニズムに新たな息吹を吹き込む好例だ。
同様のコラボレーションの例は、日本のマツダ ロードスターとイタリアのフィアット124スパイダーにも見られ、開発コストやリスクを抑えつつスポーツカーの火を絶やさぬ努力をしている。
今後、こうした事例はますます増えてきそうだが、ここまでそれぞれの独自性を感じさせる製品に仕上がるならば、自動車好きとしても大歓迎である。
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