コラム

映画『マトリックス』的な映像を手軽に実現する次世代360度カメラ Insta360 One

2017年10月02日(月)15時30分

<カメラをぐるぐる回して撮影すると、簡単に映画『マトリックス』的な「バレットタイム撮影」ができる360度カメラ>

今回は、2回続けてVR系カメラの話題となるが、どうしても採り上げておきたい製品が登場したので、あえて書くことにした。

普及価格帯にまで降りてきた製品の役割が360度写真や動画を一般化していくことにあるのに対し、民生用のハイエンド製品は、次の映像表現を目指して進化を続けている。その中で日本製品は、今も画質や解像度などハードウェアを中心に改良が進められる傾向が見られるのだが、ここで注目した中国の深圳岚锋创视网络科技有限公司によるInsta360 Oneは、ハードもさることながらソフトウェア的な工夫で新しい動画の楽しみ方を提案しているところに大きな特徴がある。

Insta360 One.jpg

筆者は、世界初の民生用VRカメラといえるリコーのTHETAが2013年に発売されたときから、将来の写真は被写体を狙って撮影するのではなく、とりあえずその場を360度の全天球イメージとして記録してしまい、後から必要な部分をトリミングするようになると予想し、いくつかの記事を書いてきた。

今では、元になる360度イメージの解像度も十分に高くなり、一部を切り出しても、たとえばオンラインマガジンなどで問題なく利用できるレベルに達しているが、Insta360 Oneではさらに一歩進めて、一般的な2D動画を360度のビデオデータから生成する「フリーキャプチャー」が可能となっている。

Insta360 One_2.jpg

その方法は、専用アプリで360度動画を再生中のiPhoneを、画面内の注目したい被写体に合わせて動かしたりズームすることによって、あたかも目の前の風景を撮影しているかのように再度録画するというもの。

ビデオカメラの普及により、旅先での撮影に気を取られて、自分の目で風景を楽しむことができないと嘆く人がいるが、フリーキャプチャー機能があれば、撮影はファインダーなどを覗くことなくInsta360 Oneの全天球モードに任せて、宿や自宅に戻ってからゆっくり切り取りたいシーンを動画にまとめることができるのだ。

また、画面内で中心的な被写体にしたい人がいれば、その部分を囲って示すことで、自動的にそこがフレーム内に収まるように2D動画を自動生成してくれる「スマートトラック」機能もある。

Insta360 One_4.jpg

さらに、映画『マトリックス』で有名になったバレットタイム(英語の発音は「ブレットタイム」に近い)映像を簡単に再現できる機能も備えている。

バレットタイムとは、被写体が静止あるいはほぼ止まった状態で、カメラがその周囲を飛び回って撮影したかのような動画を撮る手法で、本来は複雑で大掛かりな仕掛けと緻密な編集を要する。

しかしInsta360 Oneの簡易バレットタイムでは、ヒモや自撮り棒の先に本体を取り付けて円を描くように頭上で回すだけで、自動的にヒモや棒が消去されて撮影者中心のスローモーション動画が作られる。まさに、究極のセルフィービデオの出来上がる仕組みだ。

Insta360 One_5.jpg

これからの民生用ハイエンドVRカメラは、このInsta360 Oneを1つの基準として発展していくことになるだろう。


プロフィール

大谷和利

テクノロジーライター、原宿AssistOnアドバイザー、NPO法人MOSA副会長。アップル、テクノロジー、デザイン、自転車などを中心に執筆活動を行い、商品開発のコンサルティングも手がける。近著に「成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか」(現代ビジネスブック)「ICTことば辞典:250の重要キーワード」(共著・三省堂)、「東京モノ作りスペース巡り」(共著・カラーズ)。監修書に「ビジュアルシフト」(宣伝会議)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザでの戦争犯罪

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、予

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッカーファンに...フセイン皇太子がインスタで披露
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 5
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 6
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story