コラム

アパホテル炎上事件は謝罪しなければ終わらない

2017年01月23日(月)19時32分

Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<元・中国人からのアドバイス。不当な要求ではあるが、中国共産党からGOサインが出ている以上、今回の愛国主義の動きは、なんらかの落としどころがなければ鎮火しない> (写真は東京のアパグループ本社)

 新宿案内人の李小牧です。今回はアパホテルの炎上事件を取り上げたい。

 ご存じの方も多いだろうが、事件の経緯について簡単に説明しよう。アパホテルの全客室には南京大虐殺否定論の書籍が置かれている。著者は藤誠二。元谷外志雄グループ代表のペンネームだ。1月15日、中国の動画配信サイトでこの事実を取り上げた動画が公開され、爆発的な話題となった。

 20日現在、再生回数は1億回を突破している。さらに中国外交部報道官が批判したほか、中国共産党の準機関紙である環球時報には「病的歴史観だ」とのコラムが掲載された。また中国の大手旅行会社ではアパホテルの予約ページが削除されるなど事態は拡大している。

 さて、皆さんはこの問題についてどのようなご意見をお持ちだろうか。私の意見ははっきりしている。「元・中国人として、そして現・南京人の夫として、旅行客のアパホテル宿泊は支持しない。」――これは中国のSNS「微博」での私の書き込みだ(私の妻は南京出身)。アパグループのやり方は明らかに間違っている。

 南京大虐殺についてはさまざまな異論があるのは承知している。歴史学者ではない私には細かい議論の真贋を評価することはできないが、少なくとも1937年12月の南京で相当数の民間人が殺害されたということはわかる。多くの歴史学者が検証し認めている事実ではないか。

 言論の自由だから何を言おうがどんな本を書こうが自由という人もいるようだが、間違った考えだ。自分の経営するホテルに自分の著作を置くことそのものには問題はないだろう(かく言う私も、経営する歌舞伎町のレストラン「湖南菜館」に自分の著作を置いている)。だが言論の自由とは、無責任な放談を認めるものではない。ヘイトスピーチやデマについては一定の抑止力が必要だ。もちろん権力による思想統制があってはならないが、だからこそ間違った発言については市民社会が厳しく批判することが必要になる。そうした思いで私も声をあげた。

 特に元谷代表は安倍晋三首相の後援会とされる「安晋会」の副会長という立場にある。あの書籍が彼の個人的な思想表明だったとしても、世界はそうは受け取らない。「軍国主義復活を目指す安倍首相」という中国の国際的宣伝に有力な証拠として利用されるだろう。後援会副会長でありながら、安倍首相を支えるどころか足を引っ張っているわけだ。

【参考記事】アパホテル書籍で言及された「通州事件」の歴史事実

なぜ"今"炎上したのか

 さて、今回の炎上事件について、なぜこのタイミングなのか不思議に思っている人が少なくないようだ。アパホテルの客室に元谷代表の著作が置かれていたのはよく知られた話である。

 実は私自身も約1年前の2016年2月11日に微博でアパホテルの問題を取り上げている。ある中国人ネットユーザーが元谷代表の政治思想を問題視したつぶやきを微博に書き、私にもリツイートするよう求めたからだ。

 正直な話をすると、SNSであまり政治的な発言をしたくはない。私本人はかまわないのだが、妻がいやがるのだ。「政治なんて金食い虫のことはやめて、ビジネスに集中して欲しい」というのが彼女の願いだ。

「社会のため、人々のために政治家として私は貢献したいのだ! 止めてくれるな、妻よ!」と、がつんと言ってやりたいのだが、なにせ新宿区議選に出馬した時の費用は妻に借りたのでどうにも頭が上がらない(笑)。だがこの件ではさすがに黙っていられないと微博に書き込んだ。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story