コラム

いま中国の企業家や投資家が知りたい3つのこと

2016年11月22日(火)15時43分

 便利なのは、私の体験の多くはインターネット上で公開されている点だ。皆さんも「李小牧 歌舞伎町」などのワードで検索してみてほしい。無数の写真が表示されるはずだ。そこで検索サイトで見つけた私自身の写真をスクリーンに写し出し、関連するエピソードを紹介していくという手法をとった。

 集まった起業家たちは食い入るように私の話に耳を傾けていた。なぜ私の人生にこれほど関心を持つのだろうか。興味を持つポイントは3つ。「民主主義ってなんだ?」「神秘の国・日本の凄さ」、そして「異国で成功する秘訣」だ。ひとつずつ説明していこう。

中国人の興味その1:民主主義ってなんだ?

 皆さんご存知のとおり、中国は一党独裁国家であり民主主義は存在しない。人権問題で苦しみ心の底から民主主義を希求している人もいるが、大多数の人にとってはまったく体験したことのない好奇心の対象だ。中国の言論人もあれこれ論じているが、なにせ未体験なのだからろくな説明ができるはずがない。日本で30年間生活し、国籍を取得し、選挙に立候補した私の話とは重みが違う。

「みなさん歌舞伎町をご存知ですね。日本一の繁華街です。中国一の繁華街はどこでしょうか? 広東省の東莞市ですね。ではよくお考えください。東莞市で客引きをしていた男が国際情報誌のコラムニストになれますか? 選挙に出馬できますか? 誰にも公平な権利があり、実力さえあれば認められる。これが民主主義です」

 歌舞伎町の写真を示しながらのトークに聴衆は爆笑。メモを取る人までいた。たいした話じゃないと思われるかもしれないが、抽象的な話ではなく具体的な体験としての民主主義話が中国人に刺さるのだ。

【参考記事】「民主主義ってこれだ!」を香港で叫ぶ――「七一游行」体験記

中国人の興味その2:神秘の国・日本の凄さ

 次に「神秘の国・日本の凄さ」について。日本と中国には長い付き合いがあるが、それでも日本の凄さはなかなか伝わらない。なぜアジアで最も早く台頭したのか。なぜ世界的な企業や研究者を続々と輩出しているのか。なぜ人々の民度はこんなに高いのか。なぜ地震が起きてもパニックにならないのか......。どうにかこの秘密を知りたいと考えているのだ。

【参考記事】200万人の中国人が感動した熊本地震のウェブ動画

"珍"分析を披露する中国人言論人は少なくないが、皮相的な観察では日本の実力は理解できないだろう。私が思うに、日本の教育、明治維新以来150年にわたる蓄積こそがカギを握っている。

「中国だって大学進学率は高まってますよ」と反論してくる人もいるが、数世代にわたる蓄積はそう簡単には逆転できない。その結果、日本人からするとごく当然の行動が中国人からすると理解不能の神秘となる。

 例えば携帯灰皿だ。今回、豪華クルーザーでパーティーが開催されたのだが、ある中国人の女性がなにげなくタバコに火を着けた。灰皿もなにもないところだ。まさか美しい海に投げ捨てるのではと慌てた私は、すぐに持っていた携帯灰皿を差し出した。女性はこの小さな袋が何のためのものなのかわからず、ぽかーんとしていたが、数秒後に理解すると驚きの声をあげた。こんなことまで気配りするのかとびっくりしたのだ。ほんの小さなことだが、これも神秘のひとつである。

 実際、携帯灰皿はどうやら中国人観光客向けの隠れた人気商品になりつつあるようだ。最初は使い方も意味もまったくわからないが、理解すると日本の凄さを象徴するアイテムに見えてくる。ある知人などは100円ショップで携帯灰皿を買いあさり、帰国後に友人、親戚に配って回ったという。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

原油先物、週間で4カ月半ぶり下落率に トランプ関税

ビジネス

クシュタール、米当局の買収承認得るための道筋をセブ

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた

ワールド

トルコ中銀が2.5%利下げ、インフレ鈍化で 先行き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 5
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 6
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story