コラム

大増税と20兆円の資本支出に「ギャンブルだ」の声...英国は「割安の罠」から抜け出せるか?

2024年10月31日(木)17時55分

労働党は7月の総選挙のマニフェスト(政権公約)で国民保険料、所得税、付加価値税(VAT)を引き上げないと大見得を切った。しかし国民保険料の使用者負担増は実質賃金を押し下げる上、ビジネス界は「解雇や閉鎖を余儀なくされる企業も出てくる」と批判する。

ウクライナ戦争でロシアの脅威が高まる中、国防に29億ポンド、診療待ち時間を短縮するため国民保健サービス(NHS)に226億ポンド、学校に67億ポンドを追加でつぎ込み、新高速鉄道「HS2」をユーストンまで延長する。

公共サービスを立て直し、成長を促すため財政ルールを緩和して今後5年間で資本支出を1000億ポンド(約20兆円)増やす方針だ。

増税と設備投資という二律背反

21歳以上の法定生活賃金(最低賃金のこと)は来年4月から時給11.44ポンドから12.21ポンドに引き上げられる。

「増税と設備投資という二律背反の予算は本質的な矛盾も含んでいる。最終的に投資と成長を促進する責任を負うことになるビジネスリーダーは増税、賃上げ、労働者の権利の見直しという『パーフェクト・ストーム』に直面し、戦々恐々としている」(タイムズ紙)

英シンクタンク「財政研究所」(IFS)のポール・ジョンソン所長は「大幅増税、公共サービスへの資金投入、借り入れと投資の増額といった予想通りの予算となった。リーブス氏はギャンブルとも言える2つの大きな判断をした」という。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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