コラム

英国の大学も「大倒産」時代を迎える...「留学生頼み」のハイリスク経営の落とし穴

2024年08月15日(木)18時41分
イギリスの大学が「大量倒産」の危機

Skowronek/Shutterstock

<最悪のシナリオでは「26年度には8割以上の大学が赤字となり、4分の3近くが資金繰りに行き詰まる」との指摘も>

[ロンドン発]留学生の3人に1人が利用するオンライン・プラットフォーム、Enrolyによると、英国の大学への入学予約は昨年8月に比べ35%も減少している。英紙フィナンシャル・タイムズ(8月14日)が伝えている。留学生頼みの英国の大学経営は危機に直面する恐れがある。

それによると、1年前に比べ減ったのはナイジェリア65%減、ガーナ53%減、インド44%減、スリランカ41%減、バングラデシュ34%減。一方、増えたのはネパール37%増、ケニア42%増。5月時点では1年前との比較で57%も減少していた。

移民に寛容な労働党政権の誕生で少しは改善に向かっているようだ。

欧州連合(EU)離脱を主導した保守党政権のおかげで、英国で学ぶEU圏の留学生は2019年度の約14万3000人から21年度には約2万3000人に急減。留学ビザの要件が厳しくなった上、大学授業料が「外国人枠」になってハネ上がり、学生ローンも使えなくなったためだ。

長州五傑は1人1年1000両

歓迎されるならまだしも、露骨に嫌な顔をされてまで馬鹿高い授業料を払って英国にやってくる留学生はいない。「円弱」日本からの修士留学生に尋ねると、授業料と生活費を合わせて1年に1000万円はかかるそうだ。新時代を開いた長州五傑の1人1年1000両という話を思い出す。

移民を減らすため保守党は陰険な本性をさらけ出した。留学生による扶養家族の帯同は制限され、修了後2~3年間は英国で働けるビザの廃止・縮小が懸念されていた。ブリジット・フィリップソン教育相は「留学生を歓迎したい」と前保守党政権の後ろ向きレトリックを批判する。

高等教育の監督機関、学生局は5月「高等教育セクターの財政への圧力が高まっている。学生の増加について楽観的に考えすぎないよう」大学に注意喚起する報告書を出している。学生局は再建プログラムを担当する企業に最高400万ポンド(約7億5600万円)の契約を募っている。

高等教育機関が直面する財政的課題は大きくなる

英国の高等教育機関は22~26年度にかけ留学生35%、英国人学生24%の入学者増を見込む。しかし学部学生の入学申請や留学ビザの最新データによると、今年、留学生数の大幅な減少を含め、全体的に入学者数は減っている。

22年度の財務状況は悪化した。26年度以降は改善を見込むものの、追加収入の多くは英国人学生と留学生の増加が織り込まれている。留学生を大幅に増加させることができるかどうかは不透明であるため、高等教育機関が直面する実際の財政的課題は大きくなる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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