コラム

英国の大学も「大倒産」時代を迎える...「留学生頼み」のハイリスク経営の落とし穴

2024年08月15日(木)18時41分

学生局の報告書は高等教育機関が直面する5つの主要リスクを挙げている。

(1)英国人の学部学生からの実質的な収入の継続的な減少と、運営費に対するインフレと経済的圧力
(2)出願が好調に伸びてきたにもかかわらず、英国人学生、特に留学生の出願が最近明らかに減少している
(3)留学生の授業料収入に依存した財政モデル。特に1カ国からの留学生頼みになっている大学は危うい
(4)必要な校舎の維持・新築にかかる費用と、ネットゼロ達成に向けたコミットメントの一環として二酸化炭素排出量を削減するために必要な多額の投資費用
(5)学生や教職員の生活費の問題は学生募集と在学中に学生が必要とするサポートの両面で課題となる

楽観主義バイアスからの脱却が急務

学生局のスーザン・ラップワース最高責任者は「多くの大学は財務管理を徹底している。しかし大学セクター全体の状況はますます厳しくなっている。倒産の重大なリスクを避けるため、資金調達モデルを大幅に変更しなければならない大学が増えている」と警鐘を鳴らす。

「成長できる大学もあるだろう。しかし全体が成長しない場合、26年度には3分の2近くの大学が赤字に転落、4割は年度末に資金繰りに窮する。最悪シナリオでは8割以上が赤字となり、4分の3近くが資金繰りに行き詰まる」と楽観主義バイアスからの脱却を呼びかける。

1997年まで英国とEU域内の学生の授業料は無償だった。98年から年間1000ポンドに有償化され、2006年に上限3000ポンド、12年にさらに9000ポンドと3倍に引き上げられた(17年から9250ポンド)。「外国人枠」の留学生の授業料は馬鹿高い。

一般的に1万~3万8000ポンドで、医学分野では5万8600ポンドに達することも。経営学修士(MBA)は2万~4万5000ポンドが相場。これだけ払わされて家族帯同や修了後の就労ビザで嫌がらせをされてはかなわない。さらに英国では反移民暴動が吹き荒れる。

留学生頼みのハイリスク・ハイリターンの英国流大学経営モデルはグローバリゼーションの逆回転で重大な転機を迎えている。

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story