コラム

ウクライナ軍が7集落を解放...プーチンは「敵は目的を達成できていない」と強がるだけの「裸の王様」に

2023年06月13日(火)18時37分
ウクライナのドニプロ川

ダム爆破で増水したドニプロ川(ヘルソン市で木村正人撮影)

<カホフカ水力発電所ダムの爆破により水害被害に見舞われているヘルソン市で現地取材。ウクライナ軍による反攻の成果は?>

[ウクライナ南部ヘルソン市発]12日早朝、ウクライナ中部クリヴィー・リフを小型バスで出発し、南部ミコライウからタクシーを飛ばしてカホフカ水力発電所ダムの爆破で水害被害に見舞われているヘルソン市に向かった。ヘルソン市はロシア軍が昨年2月の侵攻以降、攻略できた唯一の州都だったが、昨年11月に解放されている。

ヘルソン市の人影はまばらで、飲料水を満タンに入れた4リッターボトルを両手に一つずつ下げて歩く市民を見かけた。「ドーン、ドーン」という近い砲撃音と「ゴロゴロ、ゴロゴロ」という遠い砲撃音が交錯した。ダム破壊による洪水でドニプロ川左岸のロシア軍は少し後退したものの、戦闘は続いていることをうかがわせた。

230613kmr_deu02.jpg

4リッターボトル入りの飲料水を運ぶ市民(同)

2010年に造船技術を学ぶ留学生としてミコライウにやって来たカメルーン出身のパトリス(35)はカフェを3つ営む傍ら、空き時間は副業でタクシーの運転手をしている。ウクライナで同国語を巧みに操るアフリカ系住民と出会ったのは初めてだ。パトリスはロシア軍の侵攻前は車で家族一緒に週末にはヘルソン市の大型ショッピングセンターに買い物に来ていた。

そのショッピングセンターはロシア軍の攻撃で破壊された。

230613kmr_deu03.jpg

全焼したショッピングセンターの前で目をつぶるパトリス(同)

パトリスは公園で出会った素敵なウクライナ人女性と結婚し、ミコライウに残って生計を立てるため事業を始めた。「独裁者に支配されたカメルーンより戦火であってもウクライナの方がいい。妻と7歳の息子と5歳の娘はベルギーに避難させている。僕はカフェがあるからミコライウに残り、家族に仕送りしている」

230613kmr_deu04.jpg

ロシア軍の攻撃で破壊された建物(同)

「ドニプロ川左岸の解放を不可能にしようとしている」

増水したヘルソン市のドニプロ川右岸を撮影しようと鉄条網で囲まれた区域に近づくと、パトリスが「地雷があるから行ってはダメだ」と叫んだ。「ロシア軍がやったことと言えば破壊だけだ。ミコライウでも壮絶な戦闘があり、ロシア軍の戦車が道路を走行しているのを見た。それまではバラバラだったウクライナはロシア軍という共通の敵を前に一致団結した」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story