コラム

「戦争が始まる」と信じる欧州の若者たち 平和と繁栄のEUは生き残れるか 欧州議会選始まる

2019年05月24日(金)10時07分

5月23日、欧州議会選の投票が行われたロンドンの投票所(筆者撮影)

[ロンドン発]欧州の未来を大きく左右する欧州連合(EU、人口約5億1260万人)の欧州議会選が5月23日、英国、オランダを皮切りに始まった。26日まで投票が行われ、28カ国で計751議席を争う。出口調査の結果は英国時間で投票が締め切られる26日午後10時に発表される。

テリーザ・メイ首相は24日に辞任すると英紙タイムズが1面トップで報じたこの日、朝早くから欧州議会選の投票が行われた。フラット上階の保育ママ、キャサリンは「絶対に残留よ」と息子を連れて投票所に出掛けた。2人とも筆者に親指を突き立て、笑顔を見せた。

投票所ではオランダ出身の妻と一緒に投票を済ませた年金生活者の男性(69)が「英国はEUに残留した方が良い。新党チェンジUK(労働党と保守党の残留派が合流して結成)に入れたよ」と話した。

筆者の暮らすロンドンのランベス区は3年前のEU国民投票で、スペイン南部にある英海外領土ジブラルタルの96%に次いで残留派が79%と多かった地域である。

「国民投票の再実施」を口にして崩壊

今回の欧州議会選(英国)では、市民生活や企業活動に混乱をもたらす「合意なき離脱」を主導する新党ブレグジット党の支持率は最高で38%に達した。一方、残留派は労働党、自由民主党、チェンジUK、緑の党、スコットランド民族党(SNP)にまたがっている。

ロンドンのシンクタンク、欧州外交評議会(ECFR)の調査では離脱派と残留派は同じ36%前後で大接戦を繰り広げている。

EUとの離脱交渉が暗礁に乗り上げたメイ首相は与党・保守党の強硬離脱派、北アイルランドの地域政党・民主統一党(DUP)に続き、与野党協議を続けていた最大野党・労働党にまで見放された。

「断末魔」と化したメイ首相はEUとの離脱合意が下院で承認されることを条件に、その合意を国民投票にかけるかどうかを下院にかける10ポイントプランを発表した。

下院で過半数を得るため残留派の支持を取り付ける必要があるからとは言え、強硬離脱派にとっては禁忌(きんき)の「国民投票の再実施」を匂わすとは。これでは政権が崩壊しない方がおかしい。

案の定、これまで政権を支えてきた強硬離脱派のアンドレア・レッドサム下院院内総務が辞任。2017年の抜き打ち解散・総選挙以降、辞任した閣僚や閣外担当相らは実に計50人。このうちEU離脱交渉が原因になったのは34人という前代未聞の惨状である。

前出のECFRは欧州議会選に関連して、いくつか興味深いデータを出している。EUと自国政府のどちらも機能していると回答したのは英国ではたった7%。南欧のギリシャ6%、イタリア9%、フランス10%。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

11月インドPMI、サービスが3カ月ぶり高水準 コ

ビジネス

S&P、アダニ・グループ3社の見通し引き下げ 米で

ワールド

焦点:ウクライナ巡り市民が告発し合うロシア、「密告

ワールド

台湾総統、太平洋3カ国訪問へ 米立ち寄り先の詳細は
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story