コラム

民主化か軍事化か、制裁解除後のイランの岐路(後編)

2016年01月26日(火)06時05分

 核協議で米欧と合意し、制裁解除が進めば、国内の引き締めは緩和される。ロハニ大統領は制裁解除に伴う対外経済関係の活性化を追い風として、国民、経済界、宗教界をまとめることができる。それは軍事・治安で支配を強める革命防衛隊に対抗する戦略ともなる。ただし、改革派への警戒心が強いハメネイ師は、ロハニ師を使って改革者との関係を修復し、民主化を進めて、民意を味方につけるという方向には動かない。そうなると、民主化要求デモが再燃しても、革命防衛隊や治安部隊を使って抑え込むという場当たり的な対応が続くことになるだろう。

 イランにとって本当の危機は「ハメネイ後」に来るだろう。2月下旬に行われる議会選挙に合わせて、最高指導者を選任する専門家会議のメンバーの選挙もある。専門家会議の任期は8年だから次期専門家会議が、現在76歳で、健康問題を抱えるハメネイ師の後継者を選任する可能性は高い。

 ハメネイ師は1989年に最高指導者に就任し、すでに26年を過ぎた。もともと反米主義の保守強硬派だが、現実的なバランス感覚でイスラム体制を担ってきた。しかし、改革を拒否して国民の支持を得る改革派を選挙から排除し、民主化を抑え込むことによってしか、イスラム体制を維持できないという矛盾を抱え込んでいる。無理を重ねてきた最高指導者の交代によって政治が一気に流動化しかねない危うさをはらんでいる。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

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