コラム

対戦国の国歌にブーイング......僕がイングランド人を心底恥じる瞬間

2024年07月05日(金)16時50分

それでもブーイングは続き、ほとんど無差別にどこが相手でも起こっている。例えば、ウクライナ侵攻への非難を表明する手段としてロシアを侮辱する、というようなものではない。友好国の国歌にも同じようにブーイングするし、地政学的にも競技上でもライバルではないような小国の国歌でもそうする。

しばらく連絡を取っていなかったドイツやイタリア、デンマークの友人が、僕がサッカー好きと知っているし、もうすぐ互いの国が対戦するから、ということでメールを送ってきてくれたりすると、たまらなく申し訳なくなってしまう。僕は、前もって謝っておくことを覚えた。

4年前も僕は、試合後に謝罪しなければならなかった。イングランドがドイツに快勝したのだが、イングランドファンがドイツのファンに繰り出したヤジや嘲りに、ドイツの少女が涙を流す様子がカメラに撮られてしまったからだ。「悪い敗者」は十分悪いが、「悪い勝者」は絶望的だ。

これはスポーツの本質から完全に外れている。対戦国同士は、友好的な、いや、お祭りムードの競争の精神で向き合うのだ。イングランドのファンは、対戦する全ての人々を侮辱することで、自分自身をおとしめている。

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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