コラム

再び無秩序に増加する移民問題で欧州の政治は大荒れ

2023年12月07日(木)18時45分
アイルランドの首都ダブリンの反移民暴動の暴徒

警察車両を襲撃する反移民の暴徒(ダブリン、11月23日) CLODAGH KILCOYNEーREUTERS

<ブレグジット後にむしろ移民が増加したイギリスだけでなく、ヨーロッパ各国で移民問題は深刻化している>

公式統計の修正のせいで政権が転覆する可能性があるとは、そうそう考えられない。だがイギリスでは、2022年の純移民数(入国した移民から出国数を差し引いた人数)が実は74万5000人に達していたという最近の発表のせいで、「殺すか殺されるか」という言葉が頻繁にささやかれるようになった。スナク政権は既に暗礁に乗り上げている。もし彼が移民数を減少させるのにしくじれば、有権者が次の選挙で彼を追い出すだろうことは目に見えている。

純移民数からいくつか読み取れることがある。まず、このペースでいけば、イギリスという比較的小さな国が、ほぼ3年ごとに大都市マンチェスターと同等の人口を輸入することになる。第2に、多くの有権者が移民の流入を抑えるためにEU離脱を選択したにも関わらず、ブレグジット後に移民が急増している。

第3に、これまでの歴代政権は移民抑制という公約を守れなかった。さかのぼること2010年にはキャメロン首相(当時)が純移民数を年間「数万人」に減らすと約束していた。22年の純移民数74万5000という数は、当初発表していた60万6000よりはるかに多いというだけでなく、キャメロンが言った「数万人」よりべらぼうに多いじゃないかと、国民は指摘していいはずだ。

結論は、政治家は移民を減らすために行動できないか、するつもりがないということだ。それは国民の怒りを呼び起こす。必ずしも常に全ての移民を拒絶しているわけではなく、大量かつ無秩序に見える移民流入への反感だ。

例えばイギリスでは、国民保健サービス(NHS)は大切な機関で、医師から看護師、技術者、スタッフに至るまで、多数の移民労働者に依存していることを国民はよく分かっている。彼らは英社会に貢献し、税金を払っている。

でも、NHSのスタッフの働きに感謝している同じ人々が、病院の増設やスタッフの増員を上回るペースでイギリスの人口が増え続けていることがNHSに大きな負荷をかけていると糾弾しかねない。同じことが住宅や学校、歯科などの問題にも言える。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story