コラム

サッカー女子W杯で大健闘のイングランドと、目に余る「男子ならあり得ない」光景の数々

2023年08月30日(水)14時15分
準優勝に終わったイングランド代表の女子選手たち

スペインに敗れ準優勝に終わったイングランド EURASIA SPORT IMAGES/GETTY IMAGES

<女子サッカーワールドカップで、準優勝したイングランド代表。女子サッカーの人気は高まり、発展を遂げたものの、まだ男子サッカーと比べるとあり得ないような扱いも残る>

8月20日に閉幕した女子サッカーワールドカップ(W杯)の最後に、奇妙な瞬間があった。準優勝したイングランドのゴールキーパー、メアリー・アープスがゴールデングローブ賞を受賞し、英BBCの解説者が、それでも彼女のレプリカユニフォームを買うことはできない、と今大会で何度目かの指摘をしたのだ。スポンサーのナイキは、大会中に商業的な理由からキーパーのユニフォームを発売しなかった(キーパー以外の選手のユニフォームは発売)。明らかに、男子サッカーならこれはあり得ないだろう。

イギリスでは今回、見ようと思えば女子W杯の試合は全て見られたが、ほとんどは「通常の」テレビ番組ではなくBBCやITV局のストリーミング配信。繰り返すが、男子サッカーならあり得ない。

今年初めには、女子サッカーリーグWSL(ウィメンズ・スーパーリーグ)の大失態をラジオで耳にした。チェルシーとリバプールの試合が、ピッチ凍結で危険な状態だからという理由で、開始6分で中止になったのだ。そんなコンディションは試合開始前から明らかだっただろうから、不信感が高まった。これはアマチュアじみていてプロらしくない。

そもそも、より深刻なのは、なぜ女子プロ選手は男子より劣ったピッチで試合しなければならないのかということ。例外はレスター・シティで、女子は男子と同じスタジアムを使える。ただし、男子とスケジュールがぶつからない範囲で。

多くのイングランド人中年男性がそうであるように僕も、サッカーイングランド代表が何らかの大会で優勝すること、そしてW杯で決勝に進むことを待ち望み、それに人生の全てを費やしてきた。今や、女子代表が過去12カ月でそのどちらもやり遂げたのだ(女子は昨年の欧州選手権〔ユーロ〕で優勝)。明らかな偉業だし、国中のメディアがライオネス(女子チームの通称)とサリーナ・ウィーグマン監督をたたえている。

女子サッカーは大きな前進を遂げてきたし、公平を期すために言えばイングランドサッカー協会は2020年から女子選手に男子と同額の報酬を支払っている(監督は対象外)。イングランド女子は男子と同じ世界クラスの施設、セントジョージズパークを練習に使うこともできる。これが可能になったことは、ある元女子選手に言わせればイングランド女子チーム発展の「鍵」になったという。それでも、まだまだ格差があることは明らかだ。

女子選手が男子の試合を解説すると反発を招く

陸上やテニスやホッケーなど他のスポーツには当てはまらないのだが、一般的に女子サッカーには格下扱いの雰囲気が残っている。女子サッカーは独自の長所を持つ個別の競技というより、男子サッカーの劣化版のような考えが潜んでいるようだ。

もちろん体格などに違いはあるが、女子サッカーの優れた点を数多く挙げられるのは僕だけではない。とりわけ、男子の試合で目立った問題になっているシミュレーション(ファウルを受けたことを装う行為)や審判などへの暴言がはるかに少ないのはいい。女子の試合はずっとスムーズに進行する。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story