コラム

厳しすぎるコロナ対策から一転、全てがなかったことに...イギリス、極端すぎない?

2023年07月14日(金)13時30分
子供病棟を視察するリシ・スナク英首相

医師や看護師も、もはやコロナなど存在しないかのよう(写真は7月4日、ロンドンの子供病棟を視察するリシ・スナク英首相) Jack Hill/Pool via REUTERS

<英政府のコロナ対策を「反省」する調査が行われているが、もはや医師や看護師までみんなノーマスク>

イギリスでは今まさに、これまでの英政府の新型コロナウイルス対策を検証する公的調査が行われている最中だ。もう少しましな備えをするべきだったのではないか? われわれは何を間違えてしまったのか? どんな教訓を学ぶことができるのだろうか?

僕がなぜこの話題を持ち出すかというと、ごく単純な教訓の数々を、それを学んでしかるべき最も適切な人々、しかも学ぶべき最も強い動機を持つ人々でさえ、こんなにも学んでいないということが、僕にはまるで理解できないからだ。つまり、NHS(国民保健サービス)のことなのだが。

家系的な心配もあり、僕は毎年精密な眼科検査を受けている。今年の検査では、医師がマスクもフェイスガードもなしに約20分、僕の顔からほんの数センチの近さに顔を寄せていた。空気感染のことを考えないにしたって、この状況はひどく決まりの悪いものだった。僕は目をつぶりたくなったし(眼科検査だから無理)、息を我慢しなきゃと思った(もちろん無理)。

その医師はその日、僕の他にも立て続けに大勢の患者を診察していた。待合室では(笑えることに)隣と2メートル離れて座ってくださいと指示書きが張ってあるのに、患者は誰一人としてマスクをつけてとは言われなかった。まるでコロナなど存在していなかったかのように全ての規制を取りやめてしまうその論理を、僕は理解できない。検査に使う機器のところにプラスチック板のガードを据え付けることくらい、簡単にできるはずなのに......。

救急隊員や医師や看護師たちは、たとえコロナ重症化リスクの高い患者を扱う場合でも、もはや日常的にマスクをしていない。マスク着用は確か、基本的な予防策だったはずでは?

まるで「マインドトリック」

同様に、コロナ危機さなかには極端すぎる対策が取られていたことも理解できない。

たとえば僕は、地元のクリニックに予約を入れて、コロナウイルス感染の症状もなかったというのに(僕はロックダウンのルールに律儀に従っていたから実質的に潜伏期である可能性もゼロだった)、クリニックに入らせてもらえなかったりした。来院の直前にPCR検査を受けていないからという理由で、医師は駐車場で(ごく短時間)診てくれただけ。

当時、僕は放っておくと深刻化しかねないつらい症状を抱えていて、その後に慢性化してしまった。もっと早くにきちんと診断を受けられていたら事態は違っていたんじゃないかと、あれ以来何度も考えてしまう。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story