コラム

BBCのジャニー喜多川「性加害」報道が問う、エンタメ界の闇と日本の沈黙

2023年03月16日(木)16時35分
ジャニー喜多川の疑惑を取り上げたBBCの番組

ジャニー喜多川の疑惑を取り上げたBBCの番組 BBC News-YouTube

<公然の秘密ながら日本の大手メディアは決して深入りしない、ジャニー喜多川の疑惑を取り上げたBBCの番組は、世界共通のエンタメ界の闇と、日本社会の問題を投げかける>

東京でイギリスの新聞の特派員をしていた頃、外国から有名ジャーナリストがなだれ込んで来ては、日本ではとっくに常識と思われるようなニュースを大々的「スクープ」として報じているのに驚かされた。日本経済はもはや世界の先頭を走っていない! 日本でもホームレスが問題化している! 日本の司法制度は過酷すぎる! そしていま加わったのが──ジャニー喜多川は連続性加害者だ!

イギリスで3月7日、BBCのドキュメンタリー『捕食者:Jポップの隠れたスキャンダル』が放送された。ジャニーズ事務所の創業者である故ジャニー喜多川を取り上げたものだ。公平を期すために言うと、番組を担当した記者モビーン・アザーはこのスキャンダルを新事実として報じたわけではない。むしろこの番組は、性的虐待疑惑が何十年も前からあり、日本でも報じられ、民事裁判も行われて被害者や目撃者も証言してきたことを説明している。だからこそ問いかけたのは、喜多川がそれら全てを免れ、死後数年がたつ今もなお崇拝されているのは一体どういうわけか、という点だった。

1つ確かなのは、エンターテインメント業界とメディアがこの問題に深入りしないということ。喜多川は新たなタレントを育て上げることにかけて、格別の長きにわたり信じ難いほどの成功を収めてきた人物であり、彼の築いたジャニーズは今も成功を続けている。ハリウッドの「枕営業」カルチャーであれ、10代のファンに手を出すポップスターであれ、企業や組織は自分たちの売れ筋ビジネスに痛手を与えかねない出来事には目をつぶりがちだ。

重ねて言うが、これは日本だけの問題ではない。男たち、特にエンタメ界の男たちが何十年も性的虐待を働き、自らの名声や権力や金を駆使して罰を免れる、というお決まりのパターンが出来上がっている。

でも少なくともイギリスやアメリカの有名人のケースでは、ある種の矯正がみられるようだ。その一部、たとえばBBCの人気司会者だったジミー・サビルやポップスターのマイケル・ジャクソンは、死後になってようやく公に恥がさらされた(亡くなった当初はどちらも偉大なスターとして嘆き悲しまれた)。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

豪CPI、2月は前年比+2.4%に鈍化 予想下回る

ビジネス

海外動向など「不確実性高い」、物価に上下のリスク=

ワールド

米デル、25年度はコスト削減で10%人員減 多様性

ワールド

ロ外相「黒海合意は世界の食糧安保のため」、停戦楽観
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 7
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 8
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 9
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 10
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story