コラム

「一強」スコットランド首相が失意の電撃辞任した理由

2023年02月20日(月)16時05分

スコットランド人の多くにとって、彼女が適切な課題に「的を絞る」ことができないことはかなり問題だったようだ。彼らに言わせれば、首相としてのスタージョンの仕事はスコットランドを統治すること。だが彼女は、スコットランド独立運動を推し進めるために首相という地位をいかに生かすか、という点に最大の関心を払っているように見えた。

スコットランドには目を向けるべき数々の問題がある。例えば、健康問題はイギリスの他の地域よりはるかに深刻だ。平均余命はイングランドより約2年短い。その差は2018年から2020年にかけて大きくなった(これが入手できる最新の統計記録だ)。

ドラッグやアルコールによる死亡もイギリスの他の地域に比べて著しく高い。スタージョンは教育に関する実績で強い非難も受けている(有権者の関心が高い分野だ)。公平を期して言うと、スコットランドの犯罪率がイギリスの他地域より低く、スタージョン政権下で特に顕著に下がったことも注目されるべきだろう。

性別変更の法案が決定打に

暗雲に覆われながらスタージョンが辞任する羽目になったもう1つの理由は、彼女の推進した最新の重点政策――スコットランド人の性自認に関する法案――が論争を引き起こしたからだ。16歳以上の人が自己申告で性別を変えられるとしたこの「性別変更手続き簡易化」法案はスコットランド議会を通ったものの、英政府に阻止されていた。

この法案は、多くのスコットランド人にも非難されていた。反対者の中には著名な女性の権利活動家たちも含まれる。法案があまりにイデオロギー的で、男として生まれた人を「自己申告」によって女性と認めることで起こり得る数々の問題から「目を背けている」からだ。

熱心に反対を表明していない人々にとっても、大多数の人にはとりたてて重要でないこの問題にあまりに多くの政治的時間と労力が割かれているように感じられた。保守派の目から見れば、何としても「進歩的」「急進的」に見せようとして反対意見をまるで無視しているように感じられた。

彼女の辞任で、政治空白も生じる。これは有力ライバルも有力後継者もいない「一強」リーダーが去る時には常に付きまとう問題だ。たとえそのリーダーが、支配的で巨大な権力を握る人物でなくとも。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story