コラム

プーチンで思い返す対ヒトラー「宥和政策」の歴史

2022年03月24日(木)16時45分

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ミュンヘン会談を終えて帰国したチェンバレン元首相と群衆(1938年9月30日、ヘストン飛行場) Public Domain

余談のようなものだが、ちまたで言われているようにチェンバレンが防衛面を軽視していたわけではないことも言っておきたい。彼はミサイル防衛レーダー開発やイングランド南岸のレーダー基地設置に尽力し、これが後の「イギリス空中戦(バトル・オブ・ブリテン)」の際に英空軍の戦力を押し上げた。ドイツの爆撃機がいつ、何台飛来するかが分かったから、迎撃できる可能性が高まった。

このテーマを僕がいま持ち出すのはもちろん、ここ20年ほどのプーチンのロシアに対する各国の政策において、こうした歴史がこだましている様子が見て取れるからだ。僕たちはたとえプーチンを好かなくても、まともに扱える人物だと判断し、平和と常識的な対応を期待してロシアと取引し、協力するべきだと考えてきた。これまでの侵略行為(ジョージア、クリミア、ロシア国外ですら実行する暗殺......)は非難したものの、主に言葉での非難にとどまり、緊張を「悪化させる」ことは望まなかった。

僕たちは1936年にベルリンでオリンピックを開催したのとちょうど同じように、2018年にロシアでサッカーワールドカップを開催した。まるで、小さな違いはあっても僕らはみんな同じ国際社会の一員だ、とでも言うかのように。そして今、全く道義に外れるウクライナ侵攻に当たって、僕たちはプーチンの本性を、僕たちの宥和政策のもたらした結果を目の当たりにし、怒りを覚え、裏切られた思いでいる。僕たちはまるでチェンバレンだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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