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ロンドン暴動から10年、イギリスにもう1つの分断が
2011年8月、ロンドンの暴動はイギリス各地に広がった Agence Vu/AFLO
<2011年8月、ロンドンからイギリス各地に拡大した暴動の発端となった、警察による黒人男性射殺は、イギリスの大きな分断を明らかにしている>
10年前、ロンドンで暴動が発生し、イギリス中に拡大した。イギリス人なら誰しも覚えている衝撃的な出来事だ。僕は当時、20年近い外国生活を経てイギリスに帰国したばかりだったから、母国の驚くべき一面を改めて思い知らされることになった。
明らかにイギリスには、他者には理解も及ばないような怒れる底辺層が存在していた。僕たちは今なおその現実と生きている。2つのイギリスが存在し、今日に至るまで政治はその分断を修復できていない。
例えば保守党は、貧困層をより豊かにして社会的機会を増大させるという「底上げ」策を語る。労働党はかなり左傾化を続け、労働者を通り越して少数派を代表する党にまで成り果てている。どちらの党もその過程で、伝統的な支持層を失うリスクを冒した。労働党は直近の総選挙で惨敗しているし、保守党は6月に行われた補欠選挙で、盤石なはずの議席を1つ失った。
奇妙なことに、10年たって僕が最も強い関心を覚えるのは、当時はほとんど気に留めなかったもの――マーク・ダガンだ。
「事実」はまだ論争の的
10年前、僕は暴動によって明るみに出た社会問題の数々に心を奪われていた。ある意味、僕はダガンが警察官に射殺された事件を、暴動の単なる発端くらいに考えていた。でも今、僕が一番疑問に思うことはこれだ。ダガンをどう見るか? この質問はイギリスの価値観と見識における大きな分断を明らかにする。
彼を英政府による犠牲者だと捉える人もいる。黒人でスラム街の若者だった故に警官に殺されたのだ、と。あるいは彼を、無法者生活の重い代償を払った1人の犯罪者と見て、彼が殉教者に祭り上げられているのはおかしいと感じている人もいる。
「事実」はいまだ論争の的だ。ダガンは間違いなくドラッグ取引の犯罪者集団のメンバーで、暴力事件を起こしていると評判だった。ダガンがギャングの主力メンバーだったのか「準構成員」程度だったのかは定かではない。彼は何度も逮捕歴があり、中には殺人容疑もあったが、証拠不十分で不起訴になった。だから彼は「ただの」大麻所持と盗品所持で前科あり、ということになっている。
ダガンが射殺された日、武装警官は彼が銃を運んでいるとの情報を得て現場に駆け付けた。これは正しかった。銃の入っていた箱に彼の指紋が残っていたからだ。数年来ロンドンで銃による殺人事件が急増していたことから、警察は銃器押収に力を入れていた。ダガンは、復讐殺人のために銃を購入したのではと疑われていた。
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