コラム

「15年後にガソリン車ゼロ」イギリスの本気度

2020年02月27日(木)10時00分

もう1つの重大問題は、税収だ。ガソリンとディーゼル燃料には重い税率が課されているが、電気にかかる税は現在、たった5%。だから財務省は、電気の税率を上げない限りは、数億ポンド単位の税収減に苦しむことになる(電気の税率が上がったとしたら、電気自動車の走行にはもっとカネがかかるようになって消費者から敬遠されるだろう)。

そして、最大の課題がインフラだ。国内の至る所に充電スタンドを設置する必要がある。僕の家は駐車場の真ん前にあって、なぜかいつもこの駐車場が気になって仕方がない。そこには179台用のスペースがあるのに、充電スタンドはゼロ。数年前にこの駐車場が改装されるとき、近隣住民の1人が3~4つ充電スタンドを設けるべきではと提言したが、却下されたようだ。

これは近視眼的だったが、現実的でもあった。今日この駐車場を歩いてみたが、電気自動車は1台も見つからなかったからだ(ハイブリッド車は何台か止まっていたが、ハイブリッド車も2035年までに禁止される)。毎日この駐車場に出入りしているこれら無数の自動車が、一台残らず静かで排出ガスゼロの車種に変わるなんて、想像するだけでも圧巻の光景だ。

2035年までの自動車計画は、僕にはアメリカの月面有人着陸計画とちょっと似ているように見える(月よりは壮大じゃないが)。要は、達成するための明確な計画も具体的な工程も定まっていないという意味だ。野心的な目標は、それを実現するための人間の創意工夫に力を集中するために設定される。(「われわれは、今後10年で月に行くことに決めた。......簡単だからではなく、難しいから行くのだ。なぜならその目標はわれわれの力と技術の最高峰を結集し、評価することに寄与するだろうから」――1962年、ジョン・F・ケネディ米大統領)

宇宙計画は数十年にわたりGDPの多くを費やしたからこそ、重要な前例だ。それは、気候変動を食い止めるために僕たちが今やらなければならない取り組みと、ちょうど同じような試みだった。そして、その過程で予期せぬ有益な科学的成果を生み出した。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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