コラム

「15年後にガソリン車ゼロ」イギリスの本気度

2020年02月27日(木)10時00分

2035年までに全ての自動車を無公害車にするというが電気自動車の充電スタンドなどインフラ整備が最大の課題に Simon Dawson-REUTERS

<2040年までの目標を5年も前倒しして2035年までにすべてのガソリン車・ディーゼル車の販売を禁止するとジョンソン英首相が発表>

先日、イギリスのボリス・ジョンソン首相が、イギリスで販売される全ての自動車を2035年までに無公害車(電気自動車あるいは水素自動車)に限定する、との重要な発表をした。何度も述べていることだが、今回の発表は、ブレグジット(EU離脱)を成し遂げたイギリスが、自分勝手なならず者国家などではなく、環境問題の先頭に立つリーダーだということを思い出させる。

1年前、オーストラリアでは何としても炭鉱業を守ろうとする政府が誕生し、トランプ大統領のアメリカは(気候変動への国際的な取り組みである)「パリ協定」から離脱すると通告している。つまり、他の先進民主主義諸国が責任を放棄するなかでも、イギリスは責任ある行動を取っているのだ。

イギリスは既に「2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する」との目標を設定していたから、ジョンソンにとってはこの達成時期を前倒ししないほうが楽だったろう。こうした目標期限を設定して取り組んでいるのはまだほんの一握りの国々で、イギリスはその中に入っているのだから、あえて国際社会に向けて環境問題への取り組みを強化する姿勢を見せつける必要などなかったはずだ(ちなみに、ノルウェーとアイルランド、それにスコットランド自治政府はイギリスよりも早い時期を目標にガソリン、ディーゼル車ゼロを目指していている)。

自動車産業は今回の目標前倒しに反対し、実現不可能だと叫んでいる。労働者階級か中流階級かにかかわらず、イギリスの保守党支持者たちの典型的な特徴の1つが「車好き」というほどだから、今回の決定が次の選挙で保守党に不利に働くリスクもある(トニー・ブレア元首相がかつて、労働党も「モンデオ男(フォードのモンデオをはじめとする車好きの男性)」たちの支持を獲得しなければならないと発言したこともある)。加えてジョンソン自身も大の車好きで、かつてはGQ誌で自動車についてのコラムを書いていた。

だから、政府がこの行動に出たのには、レアな理由がありそうだ――「それが正しい行動だから」。

現在の環境問題の多くが起こる原因となった産業革命がイギリスで始まって以来、われわれイギリス人は世界を脱炭素化させる義務を負っているのだと、ジョンソンはこれまでも発言してきた。

現在イギリスで販売されている車のうち、電気自動車はたった2%だ。今後、それほどまでに大幅な変化を達成するには15年という期間は決して長くないが、地球環境を守るチャンスは急速に小さくなりつつある、

最大の課題はインフラ

だいたい最初に言われるのが、電気自動車は高過ぎるし、航続距離も長くないから現実的じゃない、という指摘だ。でもそんなことを懸念するのは、技術進化の力をあまりに見くびっているのではないかと僕は思ってしまう(最適な例えじゃないかもしれないけれど、いま自分が使っているパソコンと、2005年当時に使っていたパソコンの値段と性能を比べてみるといい)。

より大きな問題は、イギリスの電力網に甚大な負荷がかかるという点だ。イギリスは、石炭火力やその他の再生可能エネルギー以外の燃料を段階的に減らしていきながら、同時に電力供給を増やす必要がある。これは非常に困難だろう。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、FRB次期議長の承認に自信 民主党の支

ワールド

エプスタイン文書追加公開、ラトニック・ウォーシュ両

ワールド

再送-米ミネソタ州での移民取り締まり、停止申し立て

ワールド

移民取り締まり抗議デモ、米連邦政府は原則不介入へ=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 2
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」から生まれる
  • 3
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタリア建築家が生んだ次世代モビリティ「ソラリス」
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    中国がちらつかせる「琉球カード」の真意
  • 6
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    【銘柄】「大戸屋」「木曽路」も株価が上がる...外食…
  • 10
    「着てない妻」をSNSに...ベッカム長男の豪遊投稿に…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story