コラム

東京五輪の前に、ロンドン五輪の結果が待ち遠しい

2019年09月19日(木)16時00分

ロンドン五輪で金メダルにキスするレスリングのタイマゾフ選手 Grigory Dukor-REUTERS

<ドーピングで132人が失格処分となり、メダル剥奪の選手が続出していまだに勝者が決まっていない競技もある2012年のロンドンオリンピック。五輪はそう簡単に終わらない>

この夏の間、「東京オリンピックまであと1年」という記事がよく出回った。そうした記事を読んで「オリンピックは成功するのだろうか」と気になった人もいれば、「猛暑が大問題になるのでは」「誰がメダルを手にするんだろう」と考えた人もいるかもしれない。あるいは、「来年の今頃にはもう全て終わってしまうんだな」と寂しさを感じる人もいるかもしれない。

そんな人々に、朗報を伝えたい。ある意味、オリンピックはそう簡単には終わらない、と。なにしろ、 僕はいまだに2012年ロンドンオリンピックの結果を注視している。今これを書いているこの瞬間も、7年前のレスリング男子フリースタイル120キロ級で、「誰が金メダルで誰が銀メダルになるだろう」と思いを巡らせているのだ。

当時、ウズベキスタンのアルトゥール・タイマゾフが優勝。だがこれで勝負ありと判断するのはあまりに時期尚早だった。ロンドン五輪の際に提出された彼の検体が再検査にかけられ、禁止薬物が検出されて、彼は今年7月にメダルを剥奪された。タイマゾフにとっては大打撃だったに違いない、なぜなら既に2017年にも北京五輪(08年)で獲得した金メダルを剥奪されているのだから。幸い、アテネ(04年・金)とシドニー(00年・銀)のメダルは、まだ手元にあるようだ。

ならば、2012年の決勝でタイマゾフに敗れた相手、ダビト・モジマナシャビリ(当時ジョージア、現ウズベキスタン)が繰り上げ優勝になるものと思うだろう。ところが、ほんの数カ月前、彼もドーピング発覚で銀メダルを剥奪されている。だから今となっては、誰がメダルをもらうべきなのか、もはや判断できない状態だ。

これは極めて珍しい事件というわけではない。ロンドン五輪ではこれまでにドーピング検査で、金メダリスト7人がメダルを剥奪され、合計60人が失格になった。陸上女子1500メートルでは、決勝に進出した選手のうち金メダリストと銀メダリストを含む4人が失格となった。

上位2人が抜けたことで、ロシアのタチアナ・トマショワが2位に浮上した。これで銀メダルをもらえることになったら、さぞうれしいに違いない。というのも彼女は、2008~2010年の2年間、競技に出場できなかったのだから。怪我ではない。尿検体をすり替えた疑いで資格停止になっていたのだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

世界EV販売、3月は29%増 中国と欧州がけん引 

ワールド

中国、対米摩擦下で貿易関係の多角化表明 「壁取り払

ワールド

中国とベトナム、多国間貿易体制への支持を表明 鉱物

ワールド

IEA、今年の石油需要見通し下方修正 貿易摩擦で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトランプ関税ではなく、習近平の「失策」
  • 3
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができているのは「米国でなく中国」である理由
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 6
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 7
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 8
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 9
    シャーロット王女と「親友」の絶妙な距離感が話題に.…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 4
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 7
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story