コラム

チェリー吉武が「世界が尊敬する日本人」にふさわしい理由、教えます

2019年04月27日(土)17時15分

本誌「世界が尊敬する日本人100人」特集 31ページより Newsweek Japan

<発売中の本誌特集「世界が尊敬する日本人100人」の中でも特に各種メディアや読者からの注目と好奇の視線を集めたのが、お笑い芸人のチェリー吉武。なぜ彼を選んだのか、推薦者のイギリス人記者が明かす>

僕が思うに、日本の人々が「ミスター・チェリー」、つまりチェリー吉武に興味を引かれたのは、彼がこの特集で取り上げられている他の人たちとはあまりに違うからだろう。それこそまさに、僕が彼に興味を引かれた理由でもある。

僕は偶然に彼を見つけた。文字通り偶然だ。リモコンのボタンを押し間違え、テレビのチャンネルがBBCニュースからCBBC(子供向け放送チャンネルChildren's BBC)に切り替わって、ワイルドな番組が映し出された。そこでは、ミスター・チェリーが世界記録の更新に挑んでいた。

たまたまそのときは記録更新ならず、だったが、後日、僕は9歳の姪と日本について話をしていて、このテレビ番組のことを言ってみた。姪っ子は言った。「彼なら知ってる。『オフィシャリー・アメイジング』のミスター・チェリーでしょ」

これには驚いた。イギリス人の9歳の子供がこの男をちゃんと名前で知っていて、簡単に説明しただけで誰のことかすぐに分かるなんて。

それから僕は、彼がイギリス中の子供たちに広く知られていること、それでいて日本ではあまり有名でないということを知り、興味をそそられた。

僕が個人的に彼を好きなのは、彼が日本人に対する数多くのステレオタイプとは逆を行っているからだ。イギリスやその他の国の多くの人々は今でも、日本人はとてもまじめで、控え目で、礼儀正しいと考えているように思える。

もちろん僕は日本に住んでいたから、常にこれが当てはまるわけではないと知っている。日本人はすごくユーモラスになることだってあるし、めちゃくちゃ無礼になることだってある。それでもどういうわけか、そう訴えても納得してもらったためしがない。ところが、ミスター・チェリーはたった2秒で、僕がどう努力しても説得できなかった事実を、彼らに見せつけられるのだ。

彼にはそんな、周囲を巻き込むようなエネルギーがある。子供たちはそれに反応する。彼はその場にいるだけで、物事をいっそう面白くできるようだ(彼の仲間たちも、彼が番組に登場するとスリルが増す、と語っている)。

もう1つ僕が驚いたのは、彼が英語を話さないということ。彼は別次元のレベルでコミュニケーションを取っているのだ。

201904300507cover-200.jpg

※4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が尊敬する日本人100人」特集。お笑い芸人からノーベル賞学者まで、誰もが知るスターから知られざる「その道の達人」まで――。文化と言葉の壁を越えて輝く天才・異才・奇才100人を取り上げる特集を、10年ぶりに組みました。渡辺直美、梅原大吾、伊藤比呂美、川島良彰、若宮正子、イチロー、蒼井そら、石上純也、野沢雅子、藤田嗣治......。いま注目すべき100人を選んでいます。

「世界が尊敬する日本人100人:2019」より
羽生結弦が「最も偉大な男子フィギュア選手」である理由
夢破れて31歳で日本を出た男が、中国でカリスマ教師になった:笈川幸司
遠藤謙、義足開発で起業し、目下の目標は「東京パラ金メダル」
中国人が蒼井そらを愛しているのはセクシー女優だから──だけではない

※過去の「世界が尊敬する日本人」特集で取り上げた人の一部は、本ウェブサイトのニューストピックス「世界が尊敬する日本人」に掲載しています。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

習中国主席、フランス・セルビア・ハンガリー訪問 5

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG

ワールド

米上院議員、イスラエルの国際法順守「疑問」

ワールド

フィリピン、南シナ海巡る合意否定 「中国のプロパガ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story