増税延期に使われた伊勢志摩「赤っ恥」サミット(後編)
Carolyn Kaster-REUTERS
<消費税率10%への引き上げは19年10月に延期となったが、そもそもこの増税は必要なのか? 消費税のモデルとなったヨーロッパの付加価値税は、制度上の欠陥が多いことから現在も見直しが進められている>
さて、決してG7の成果ではありませんが、取り敢えず来年4月に予定していた消費税率の10%への引き上げが2019年10月へ延期となりました。これから約3年、あらためて消費税制度のそもそも論を考える時間的猶予が与えられました。そして、その消費税の在り方を根底から考え直す、最大の材料もバッチリのタイミングで欧州から出てきました。
日本の消費税は欧州の付加価値税(Value Added Tax)をモデルに導入されたものですが(70年代から欧州調査団などが欧州の付加価値税制度の実情を研究、日本での導入に勤しんできた歴史があります)、元々は1954年に初めてフランスで導入された税制です。以来60年代、70年代を通じて急速な広まりを見せてきましたが、OECDに加盟する30カ国の中では唯一米国が付加価値税を導入していません。要するに、フランスそして欧州が「消費税の産みの親」というわけです。
開発国である当のフランスで付加価値税がどう捉えられているのか。日本で著名なフランスの経済学者と言えばトマ・ピケティ氏かと思いますが、逆進性が強く社会の不平等を加速する付加価値税には反対の立場です。昨年来日した折には、欧州の例を見習い社会保障費の財源確保のため消費税増税の必要性を説く指摘に対して、欧州の付加価値税率が高いのは高福祉のための財源ではなく、関税としての役割が強いためと一刀両断していました。
【参考記事】消費税再延期も財政出動も意味なし? サミットでハシゴを外された日本
また、前編で紹介したエマニュエル・トッド氏も近著の中で付加価値税制度そのものに対して反対の意見を述べています。今年、来日した際には誠に贅沢な限りではありますが、堀茂樹教授の同時通訳を介して、直接ご本人と付加価値税の話をしましが、付加価値税について、トッド氏いわく「フランスの最悪の輸出品」。
実のところ、現行のEU付加価値税制度はEUの単一市場構築のため1993年からスタートしたものに修正・補足を重ねた「暫定的制度」に過ぎません。かねてからEC(欧州委員会)自身が現行の付加価値税制度における「中立性」や「簡素性」の欠如を問題視してきました。彼らが中心となって欧州議会、欧州経済社会評議会および加盟国財務省の代表で構成される税務政策グループを巻き込んで、付加価値税の徴税漏れ(=制度欠陥)を防ぐための不正取り締まりの強化や実務の透明性と簡素化を図るための本格的な調査・分析を実施してきた経緯があります。日本では全くと言っていいほど報道されていませんが、抜本的な制度改革を進めるための調査・分析に関連する報告書は実に1700にも及ぶとされ、そうした報告書や会議や公聴会の結論を踏まえて、この度「恒久的制度」に向けての行動計画が4月7日に公表となりました。
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