アメリカの「国境調整税」導入見送りから日本が学ぶこと
アメリカには付加価値税・消費税がないため国内企業が不利益を被っているという議論があった Jorge Duenes-REUTERS
<アメリカ企業が不利益を被っているという理由からトランプ政権で導入が検討されてきた「国境調整税」だが、実質的な消費税としての機能が公平な税制への、そして国内消費減退を招くという懸念から今回の導入は見送られた>
大統領選挙期間中から提案され、トランプ政権発足直後からもめにもめてきた税制改革、中でも下院共和党案として出された国境調整税(Border Adjustment Tax, 通称BAT)の扱いが米国内ではこれまでかなり紛糾してきました。以前の寄稿で、このBATがあっさり立案、可決されると決め打ちするのは危ういと指摘いたしましたが、予想通り7月27日(現地時間)に導入却下が決定的となりました。
背景として、トランプ大統領、ムニューチン財務長官を筆頭にトランプ政権自体がBATに反対していたことはもちろんですが、この約半年間、米小売業界を中心に、実体経済目線のFACT(事実)を基にしたBAT反対の真摯なロビー活動が行われたことも大きかったと言えるでしょう。
この間の議論の推移を日本の主要メディアさんが少しでも伝えてくれれば......加計や森友問題、政治家のスキャンダル報道に費やす時間の百分の1、いや千分の1でも割いてくれれば日本の消費税議論にも深みが増すのにと思っていたのですが、やはり完全無視となりました。残念なことです。
BAT見送りが大々的に発表されたホワイトハウスの共同声明で注視するのは下記の部分でしょう。
「新しい国内消費に基づく税制に移行することなしで、アメリカの雇用と課税ベースを保護しながらアメリカ企業、外国企業、労働者との間の公平を確保する実行可能な方法があると我々は今、自信を持っている。これまで国境調整による成長押し上げ効果について討議してきたが、国境調整には多くの未知数が存在することがわかり、税制改革を進展させるためにもこの税制導入を棚上げする決定に至った。」
【参考記事】迷走するオバマケア代替法案のあまりに不都合な真実
消費税肯定派には耳の痛い部分かとは思いますが、公平さを維持するためには国内消費に基づく税制は必要ないと米国はこの度、あらためて表明したことになります。同盟国の決定については消費税増税派・反対派を問わず、10%へ消費税増税が規定路線となっている現在だからこそ日本の税制が根本的にどうあるべきなのか、あらためて立ち止まって考えるきっかけとすべきなのではないでしょうか。
BATとは何か。税制の専門的なことを言い出すとキリがありませんが、極めて端的に言うと日本の消費税と同じ機能をもたせる税制です。具体的には法人税の課税対象から、輸入に課税・輸出に免税するものです。
消費税は国内消費にかかわる税制であるはずなのに、輸出入といったい何の関係があるのか?と思われるかもしれませんが、日本の消費税(海外ではこのタイプの税制は付加価値税と呼ばれるのが一般的)にも関税(=国境で調整される税)の機能が存在し、輸入品には課税、輸出品には還付(=米公文書は還付とは言わず「リベート」としています)措置があります。
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