コラム

トランプ政権が掲げる「国境税」とは何か(後編)

2017年03月07日(火)12時00分

トランプ政権内でも「国境税」の内容についてはかなり紛糾しているようです。消費税・付加価値税を採用する各国とのリベートと関税部分の不公平を解消したいだけなら具体的な選択肢としては2点があげられます。
(1)アメリカが新たに連邦国家として付加価値税を採用する。
(2)消費税・付加価値税のリベート・関税と同じ役割を果たすよう、輸出企業に免税・輸入企業に課税する「国境調整税」という法人税改革を推す共和党案を採用する。

ただし、(1)については、アメリカ国内で付加価値税採用の話が折に触れ出て来るのも事実ですが、その度に制度そのものに反対してきた歴史的経緯を鑑みても、世論の反発からしても考えにくいものがあります。

今のところ日本国内では(2)がメイン・シナリオとされていますが、トランプ氏自身は2017年1月16日付のウォール・ストリートジャーナルのインタビューで共和党案については「複雑すぎる」「国境調整税と聞いて良いと思ったことはない」と批判。

その3日後に、上院金融委員会で開催された指名承認公聴会で財務長官に選出されたスティーブン・ムニューチン氏もトランプ氏の発言を踏襲した上で、トランプ・チームの「国境税」は共和党案の「国境調整税」とは別であり、共和党案を支持しないと示唆しています。

【参考記事】トランプの経済政策は、アメリカだけが得をする「歪んだグローバリズム」

(1)にしても(2)にしても米議会の承認を得られるかどうかという国内でのハードルがあります。WTO規定など反故にするとの声も聞こえてきますが、(2)はWTOが禁じている「輸出補助金」との兼ね合いも出てきます。そして、(1)(2)ともに国際貿易の観点からすれば結局は一部の自国企業を過剰に優遇し、関税の引上げ合戦にアメリカがあらたな形で参戦するだけとなります。多くの方が懸念されるように保護主義をたきつけることが国際社会にとって得策とは言えません。

いずれの政策に落ち着くのか政権内、共和党内の熾烈な覇権争いと相まって判断は難しいですが、少なくもトランプ・チームが反対している以上(2)と決め打ちするのは時期尚早で、ここは「国境税」の具体的な内容が出て来るのを待つしかありません。

国際課税の側面からすると、前出の野田氏の言葉を借りればこれまで歴然と存在してきた「輸出業者に対する補助金的な色彩」について(制度そのものは違法行為ではありませんが、欧州委員会が指摘するように実際の運用では不正手段に多用されてきた部分があります)、欧米では国境をまたいだ取引での不平等や不公正をいかに積極的に修正していくのかが最新のテーマになっていると言えるでしょう。

日本だけが取り残されることなく、国民経済目線の真っ当な政策については日本の税制でも大いに取り入れるべきでしょうし、それが真の国際協調でもあるはずです。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマス、新たに人質1人の遺体を引き渡し 攻撃続き停

ワールド

トランプ氏、米国に違法薬物密輸なら「攻撃対象」 コ

ビジネス

米経済、来年は「低インフレ下で成長」=ベセント財務

ビジネス

トランプ氏、次期FRB議長にハセット氏指名の可能性
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止まらない
  • 4
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 5
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 6
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story