コラム

タリバン、国際資金枯渇の危機:米ドルで三重苦 アフガニスタンの財源は?

2021年08月30日(月)19時40分

それに、タリバンは完全に孤立しているわけではない。中国やロシアは、欧米が撤退したところに喜んで介入し、資金をつぎこむことができるだろう。

特に中国は、汚職と人権無視は自分の国でも当たり前だから、違和感なくアフガニスタンに投資や援助ができることだろう。アフガニスタンの人々にとっては、今までと変わりなく汚職がはびこるだけかもしれない。

ただし今度は、外国人が率先して行う搾取が混ざる汚職となるだろう。少なくともこの点が、米欧先進国の人道援助金とは、まったく異なる点に違いない。

破綻国家

現在の財政状況では、アフガニスタンは破綻国家になるために必要な条件はすべて揃っている。

アフガン中銀の元顧問コーツ氏は、前述したように「外貨準備なくしては、もつのは数週間」と述べている。

アフガン中銀の総裁代理アフマディ氏は、「治安状況が悪化し、物流が停止しているため、中銀に現金はほとんどない」と指摘した。

さらに、アフガン中銀に十分なドルを供給できないため、通貨アフガニが下落すると予想。それに伴い食品などが値上がりし、市民が打撃を受けることになる、と述べた。

中国やロシアがタリバン政権を国家承認したところで、タリバン政権はアメリカに存在する資金には手をつけられない。バイデン政権は、元栓はアメリカが握っていると承知で、自国がもち続けることができる影響力のすべてを計算した上で、撤退を決断したのだろうか。

ただ、アフガニスタンは、結果的に、ソ連もアメリカも制御を断念して、撤退した国だ。今回のアメリカの最終的な目標や落とし所はどこなのか、よくわからない。

住民が安全に平和に暮らせて、イスラム過激派に支援せず、女性の権利が守られ、麻薬を撲滅し、そしてアメリカが一定の影響力を保持できれば、それで良しなのだろうか。それでも、格段の進歩には違いないが......。

人道援助をするのなら、そのお金が、もう決して汚職や不正の継続や誘発にならないようにしてほしい。本当にアフガニスタンの人々を助けるために使われる仕組みをつくった上で、援助を行ってほしい。

もしそれを国連で行うのなら、世界でアメリカ・中国に次いで3番目に国連分担金を払っている日本の政府は、何かできることがあるはずだ。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story