コラム

タリバンはなぜ首都を奪還できたのか? 多くのアフガン人に「違和感なく」支持される現実

2021年08月26日(木)17時00分

タリバンは、アメリカ軍が撤退を決めた後、一気に全土を掌握したわけではない。

2017年には既に、国土の7割にタリバンが存在していた。

当時、首都カブールの合法的な親米政府は、実際には国の3割しか支配していなかった。実際、アフガニスタンの田舎地域は、タリバンに奪われてしまっていたのだ。

なぜタリバンは、国内で少しずつ支持を集めて行ったのだろうか。

理由の第一は、前述したように、タリバンが過激派のやり方を脇において、アフガニスタンに伝統的なイスラム主義のやり方に変えたからである。

政権を追われたタリバンは、テクノロジーを拒絶するのではなく、プロパガンダのためにフル活用するようになる。そして、国家教育、特に女子教育に組織的に反対するよりも、それをコントロールすることを好むようになった。

それは、タリバンの目的が、自分たちが反乱兵以上の存在であり、統治する準備ができていて、それを効果的に行うことができることを住民に示すためだったからだ。

例えば、教育を挙げてみたい。

彼らは首都カブールの親米政権の資金援助を受けた学校を攻撃するのではなく、保護を確かなものにするために、学校を共同利用する。特に、親米政府派の治安部隊が、タリバンに対抗できるほど強くない地方では、そうしてきた。

さらに、政府から学校に出る資金に対して不正がはびこる中で、教師の選定に責任をもち、教師が授業はしないが給料をもらって満足している事態がないように監督することすらあったという。

もちろん、女子教育の問題に見られるように、タリバンの世界観がすべてのテーマにおいて完全に変わったわけではない。

カブール奪還後の8月17日に行われた記者会見で、タリバンの広報担当のザビフラ・ムジャヒド幹部は「女性の人権を尊重し、差別はしない」と語り、就業や通学を認める方針を示した。その上で、「イスラム法が認める範囲」としている。

イスラム法といっても、さまざまな主義や思想があり、結局は現地社会が鍵を握るだろう。

例えば同じイスラム教の国でも、チュニジアは国会議員に3割も女性がいる(ちなみに日本よりも多い。衆議院は約1割しかいない)。チュニジアの国会では、ブルカ(目以外の全身を隠す服)ではなく、頭にスカーフを着けているだけの女性議員が珍しくもない。

アフガニスタンは、若い女性の3分の1が、18歳未満で結婚している大変保守的な国であることを忘れてはならない。もちろん、親が結婚を決めているのだ。

結婚したら、女性の居場所は家庭となり、役割は子を産み育て、家事をすることになるのである。

この問題に関して、タリバンが2001年以降もほとんど進化していないとすれば、残念ながら、それは社会の反映であるかもしれない。

それから、過激派集団として6年間タリバンは政権を握っていたが、その時期でも外から見るのとは異なる側面が、一部タリバンにはあったようだ。

日本人で、アフガニスタンで支援活動を長年続けてきた中村哲医師という方がいた。2019年12月、現地で銃撃を受けて亡くなった。

中村医師は、以前のタリバン政権の時代、2001年9月11日アメリカで同時多発テロが起こり、これから本格的なアメリカと有志連合の攻撃が始まる同年10月、日経ビジネスのインタビューに答えている

「タリバンは訳が分からない狂信的集団のように言われますが、我々がアフガン国内に入ってみると全然違う」、「田舎を基盤とする政権で、いろいろな布告も今まであった慣習を明文化したという感じ。少なくとも農民・貧民層にはほとんど違和感はないようです」と述べた。

さらに以下のように語っていた。


女性の患者を診るために、女医や助産婦は必要。カブールにいる我々の47人のスタッフのうち女性は12~13人います。当然、彼女たちは学校教育を受けています。

タリバンは当初過激なおふれを出しましたが、今は少しずつ緩くなっている状態です。例えば、女性が通っている「隠れ学校」。表向きは取り締まるふりをしつつ、実際は黙認している。これも日本では全く知られていない。

我々の活動については、タリバンは圧力を加えるどころか、むしろ守ってくれる。例えば井戸を掘る際、現地で意図が通じない人がいると、タリバンが間に入って安全を確保してくれているんです。我々のカバー領域はアフガン東部で、福岡県より少し広いくらい。この範囲で1000本の井戸があれば40万人程度は生活ができると思います。

タリバンが当時過激派で、多くのアフガニスタン人が難民として祖国を捨てざるをえない状況をつくったのは事実である。ただ、当時から、100%徹底した過激主義だけではない側面も、一部はもっていたことがうかがえる。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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