コラム

タリバンはなぜ首都を奪還できたのか? 多くのアフガン人に「違和感なく」支持される現実

2021年08月26日(木)17時00分
タリバンメンバー

カブール空港の外で装甲車の上に座るタリバン兵(8月16日) REUTERS/Stringer

<米軍撤退や避難民の報道が代弁していないアフガニスタン──タリバンが支持され、政権奪取できた理由はそこにある>

タリバンは、アフガニスタンの首都カブールに無血入城、約20年ぶりに政権を奪還した。

多くの人々が「タリバンはイスラム過激主義者で、テロリスト」と思っているようだ。これから恐怖政治が敷かれるようなイメージを抱いている人もいる。

確かに、タリバンは以前は過激派だった。1996年から2001年の約6年間だけ政権の座についていたが、彼らの政策は、過激なイスラム原理主義に基づくものだった。

バーミヤンの仏像を破壊したのも、このころだ。特に女性には極度に抑圧的で、ブルカ(目以外は全身をベールで覆う服装)の着用を義務付け、女性の就労を認めないほどだった。

この政権を承認したのは、わずかにパキスタン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦のたった3カ国だった(トルクメニスタンは確認中)。

しかし、それは昔のイメージであって、今は違うと語る専門家は多い。

確かに、約20年かけて政権を奪還できたのには、それだけの理由があったはずだ。多くのアフガニスタン人の支持がなければ、政権奪取はできなかったはずだ。

その理由は、撤退側の報道だけ見て考えたら、見えてこないかもしれない。

この20年間、タリバンにどういう変化があったのだろうか。

アフガニスタンの土地柄

まずアフガニスタンはどういう土地柄なのか、見てみたい。

海がない国で、面積は約65万3000平方キロ。日本の面積は、陸地だけなら約37万8000平方キロだ。アフガニスタンのほうが1.7倍大きい。

そんな広い領土に、人口は約3800万人しかいない。日本は1億3000万人弱である。日本のほうが、3.4倍人口が多い。

このように、アフガニスタンは人口密度が低い国である。世界レベルでみても、かなり低い方の国になる。

アフガニスタンは81%が田舎である。人口7万人以上の町はわずか十数カ所しかない。

厳しく険しい山岳地帯と苛酷な砂漠地帯が広がっており、耕地面積はわずか12%である。

伝統的には(半)遊牧民が生きる土地である。

経済の実体は、天水依存の農業の豊作・凶作により変動はあるが、概ね農業3割、工業2割、サービス業5割(World Bank, World Databank)ということだ。

気候はどうだろう。

4~11月の乾季と12~3月の雨季に分かれ、雨季と乾季の間に短い春と秋がある。夏は30度を超えることもあるが、大変乾燥している。冬は氷点下20度になることも稀ではないという。

ユネスコの定義によれば、アフガニスタンは「中央アジア」に含まれている。

簡単に歴史を振り返ると、18世紀の半ば、イランの支配が終わり、部族集会によってアフガン王国が成立した。

帝国主義の時代は、南下しようとするロシアと、インドを支配する英国とのはざまで、争われている場所だった。しばらく英国の支配下に入ったが、1919年、再び王国として独立を勝ち取った。第2次世界大戦では、中立政策をとった。

大戦後の冷戦の時代には、「◯◯タン(〜の国という意味)」という国名がつく国の中で、アフガニスタンと南のパキスタンは、ソビエト連邦に属していない独立国だった。

全体として産業には恵まれていないが、シルクロードとインド方面とを結ぶルートにあったので、昔から「文明の十字路」と言われてきた。そして「戦乱の十字路」でもあった。

伝統的イスラム主義へと変化

2001年9月11日、アメリカの同時多発テロが起きた。

首謀者は、テロ組織アルカイーダのオサマ・ビン=ラディン。当時のタリバンと同じくイスラム過激主義で、ジハード(聖戦)主義だ。タリバンが彼をかくまっており、アメリカへの引き渡しを拒否。

タリバンは、アメリカと有志連合に政権を追われて、野に下った。

再び首都カブールを奪還するまでの約20年間、タリバンのイデオロギーは、過去の最も壊滅的な影響を与える原理主義の要素を脇に置いて、少しずつより伝統的なイスラム主義のアプローチになっていった。

タリバンの指導や推進してきたイデオロギーは、主にアフガニスタン領内の地方、村、多数派のパシュトゥーン人の環境から引き出されたものである。それゆえ、アフガニスタンには異質な思想ではなく、人々に根ざした思想であり、社会に広く見られる考え方を踏襲しているのだ。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story