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タリバンはなぜ首都を奪還できたのか? 多くのアフガン人に「違和感なく」支持される現実
次に重要なのは、アフガニスタンのナショナリズムである。
外国勢力が首都や国を支配していることを拒絶し、国家の独立を唱える──これがタリバンの言葉を支配していた。
アフガニスタンは、半遊牧民が多く住み、乾燥地で細々と農業が営まれている土地柄だ。
この国では、従来は「国民」という意識は比較的希薄だったというが、外国人がいうほど希薄ではないという指摘もある。
それでも、外敵がいると、人々はまとまるものである。人類の歴史上では、国内の爆発しそうな不満をそらすために、わざわざを外敵つくって世論を煽り、戦争をするケースさえよくあった。
実際、タリバンが掲げるイスラム主義の言説は、主に宗教的な言葉を使ったナショナリズムに似ている。そして、イスラム教はアフガニスタンのアイデンティティに根本的に結びついている。
そして、反乱軍への勧誘の成功である。
親米政権に対する反乱軍の勧誘力は本物で、昔と変化したタリバンの考えが、アフガニスタンの人々を魅了していることを証明していたという。
アメリカ人は2004年に1000人のタリバン兵しか言及しなかったが、学者のアントニオ・ジュストッツィは2006年に1万7000人という数字を打ち出し、2018年には6万人から7万7000人の戦闘員がいたという。現在は国連の報告書によると8万人となっている。
このような勧誘は、必ずしもイデオロギーに固執しているわけではない。
アフガニスタンは、前述したように、耕地可能な土地は12%しかない。
そのため、経済援助の獲得は、激しい競争の対象となる。親米政権からの援助も同じだった。そして不正がはびこっている。
また、麻薬、木材、宝石、金属などの希少資源の輸出も盛んで、合法、非合法の区別なく取引されている。
ある領域に恭順の意を示し、地域資源の一部の配送と引き換えに、外部からの資金や武器の恩恵を受けるためには、強力な保護者を常に求め続けなければならない。
この捕食経済のアクターたちは、時には協調するが、裏切り合うことのほうがはるかに多い。この国では、万人の万人に対する戦いが繰り広げられているという。
(なんだかマフィアやヤ○ザの世界を思い出させるが......内戦や抗争がはびこる社会は、世界中似るのだろうか)
このような現状の有り様に反発する人々の中に、志願して戦闘員になろうとする者がいるのである。
最後に、タリバンは一般的なイメージと異なり、意外に組織がしっかりしていることである。
昨年3月まで、国連アフガニスタン支援団(UNAMA)の代表を約4年にわたって務めた山本忠通氏は、朝日新聞に以下のように語っている。
タリバンは大きな組織で、軍事部門と政治部門を持っている。教育や保健など行政分野ごとの委員会もある。
政治部門の指導者は国際情勢を把握し、英語の堪能な者も少なくない。
タリバンのウェブサイトで発表される声明や主張は極めて論理的で洗練されている。イスラム関連だけではなく、古今東西の文献を引用することもある。知的レベルは高く、国際社会とどのように付き合えば良いのか理解している。
やはり、一度でも政権をとったことがあるので、ただの過激派集団とは異なるのかもしれない。
ただ山本氏は同時に、懸念も示している。
最高指導者のハイバトゥラ師は宗教指導者だ。厳しいイスラムの戒律を固く信じている人もいる。軍事部門には、後者の考えの人が多いと言われている。
タリバン指導部が示そうとしている配慮が、単に国際社会や国民を安心させるためでないことを期待するが、仮に本気でそのような政策を掲げているにしても、言葉だけでなく、行動で示す必要がある。
また、一兵卒に至るまで理解させることができるのか、多くの人は疑問に感じている。過去のタリバンの行いを記憶している。大勢の人が国外に脱出しようとしている。
アフガン・ナショナリズムの不安な要素
広くアフガニスタン人の支持を得て、外国勢力を追い出すのに成功したタリバンであるが、これからの不安な要素もある。
まず挙げられるのは、地域による違いである。
アフガニスタンでは、首都カブール(や、小さく少ないが都市部)と、それ以外の田舎で、違いが大きい。
また、南部とそれ以外の地域、南部と北部の違いも同様に大きい。
これは、地理が大きく作用している。
北部や南西部には平野があるものの、国土の4分の3は山岳地帯である(東部、中部、北部)。また、南部は砂漠である。
南部には同国人口の4割を占めるパシュトゥーン人が多い。
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