コラム

タリバンはなぜ首都を奪還できたのか? 多くのアフガン人に「違和感なく」支持される現実

2021年08月26日(木)17時00分

次に重要なのは、アフガニスタンのナショナリズムである。

外国勢力が首都や国を支配していることを拒絶し、国家の独立を唱える──これがタリバンの言葉を支配していた。

アフガニスタンは、半遊牧民が多く住み、乾燥地で細々と農業が営まれている土地柄だ。

この国では、従来は「国民」という意識は比較的希薄だったというが、外国人がいうほど希薄ではないという指摘もある。

それでも、外敵がいると、人々はまとまるものである。人類の歴史上では、国内の爆発しそうな不満をそらすために、わざわざを外敵つくって世論を煽り、戦争をするケースさえよくあった。

実際、タリバンが掲げるイスラム主義の言説は、主に宗教的な言葉を使ったナショナリズムに似ている。そして、イスラム教はアフガニスタンのアイデンティティに根本的に結びついている。

そして、反乱軍への勧誘の成功である。

親米政権に対する反乱軍の勧誘力は本物で、昔と変化したタリバンの考えが、アフガニスタンの人々を魅了していることを証明していたという。

アメリカ人は2004年に1000人のタリバン兵しか言及しなかったが、学者のアントニオ・ジュストッツィは2006年に1万7000人という数字を打ち出し、2018年には6万人から7万7000人の戦闘員がいたという。現在は国連の報告書によると8万人となっている。

このような勧誘は、必ずしもイデオロギーに固執しているわけではない。

アフガニスタンは、前述したように、耕地可能な土地は12%しかない。

そのため、経済援助の獲得は、激しい競争の対象となる。親米政権からの援助も同じだった。そして不正がはびこっている。

また、麻薬、木材、宝石、金属などの希少資源の輸出も盛んで、合法、非合法の区別なく取引されている。

ある領域に恭順の意を示し、地域資源の一部の配送と引き換えに、外部からの資金や武器の恩恵を受けるためには、強力な保護者を常に求め続けなければならない。

この捕食経済のアクターたちは、時には協調するが、裏切り合うことのほうがはるかに多い。この国では、万人の万人に対する戦いが繰り広げられているという。

(なんだかマフィアやヤ○ザの世界を思い出させるが......内戦や抗争がはびこる社会は、世界中似るのだろうか)

このような現状の有り様に反発する人々の中に、志願して戦闘員になろうとする者がいるのである。

最後に、タリバンは一般的なイメージと異なり、意外に組織がしっかりしていることである。

昨年3月まで、国連アフガニスタン支援団(UNAMA)の代表を約4年にわたって務めた山本忠通氏は、朝日新聞に以下のように語っている。


タリバンは大きな組織で、軍事部門と政治部門を持っている。教育や保健など行政分野ごとの委員会もある。

政治部門の指導者は国際情勢を把握し、英語の堪能な者も少なくない。

タリバンのウェブサイトで発表される声明や主張は極めて論理的で洗練されている。イスラム関連だけではなく、古今東西の文献を引用することもある。知的レベルは高く、国際社会とどのように付き合えば良いのか理解している。

やはり、一度でも政権をとったことがあるので、ただの過激派集団とは異なるのかもしれない。

ただ山本氏は同時に、懸念も示している。


最高指導者のハイバトゥラ師は宗教指導者だ。厳しいイスラムの戒律を固く信じている人もいる。軍事部門には、後者の考えの人が多いと言われている。

タリバン指導部が示そうとしている配慮が、単に国際社会や国民を安心させるためでないことを期待するが、仮に本気でそのような政策を掲げているにしても、言葉だけでなく、行動で示す必要がある。

また、一兵卒に至るまで理解させることができるのか、多くの人は疑問に感じている。過去のタリバンの行いを記憶している。大勢の人が国外に脱出しようとしている。

アフガン・ナショナリズムの不安な要素

広くアフガニスタン人の支持を得て、外国勢力を追い出すのに成功したタリバンであるが、これからの不安な要素もある。

まず挙げられるのは、地域による違いである。

アフガニスタンでは、首都カブール(や、小さく少ないが都市部)と、それ以外の田舎で、違いが大きい。

また、南部とそれ以外の地域、南部と北部の違いも同様に大きい。

これは、地理が大きく作用している。

北部や南西部には平野があるものの、国土の4分の3は山岳地帯である(東部、中部、北部)。また、南部は砂漠である。

南部には同国人口の4割を占めるパシュトゥーン人が多い。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。個人ページは「欧州とEU そしてこの世界のものがたり」異文明の出会い、平等と自由、グローバル化と日本の国際化がテーマ。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使インタビュー記事も担当(〜18年)。ヤフーオーサー・個人・エキスパート(2017〜2025年3月)。編著『ニッポンの評判 世界17カ国レポート』新潮社、欧州の章編著『世界で広がる脱原発』宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省庁の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ホルムズ再開なら利下げ余地、原油安で物価下押し=米

ビジネス

FRB政策「良い位置」、原油高でインフレ抑制に懸念

ワールド

バンス米副大統領、イラン交渉に向け出発 「甘く見る

ビジネス

米3月CPI前年比3.3%上昇、原油高でインフレ加
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡散──深まる謎
  • 4
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 5
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 6
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 7
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 8
    戸建てシフトで激変する住宅市場
  • 9
    高学力の男女で見ても、日本の男女の年収格差は世界…
  • 10
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 6
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 7
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 8
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 9
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 10
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story