コラム

なぜトランプは根強く支持されるのか──歴史観と人種問題に見るバイデンとの対立

2021年03月01日(月)17時25分

1619年プロジェクトは「キャンセル文化」「批判的人種論」「歴史修正主義」と批判され、議論はほとんど「戦争」となった。

(この段落追記)トランプ大統領が28日演説したが、背後の壁に「AMERICA UNCANCELED(キャンセルなしのアメリカ)」というスローガンが貼られているのが見えるだろうか。これは、「1619年プロジェクトはキャンセル文化だ」という批判からきている。だから「キャンセルなしのアメリカ」というスローガンなのである。

賛否は別として、反発が出るのは当然と言えるだろう。アメリカの成立は「1776年の独立宣言」とされてきた。アメリカのみならず、世界中で。

旧大陸であるヨーロッパから、宗教の自由を求めて、白人たちは(彼らにとっての)新大陸アメリカにやってきた。当時アメリカはまだ、イギリスやフランスなど、欧州諸国の植民地だった。そして、東海岸の植民地13州は、1775年から1783年、独立を勝ち取るためにイギリス軍と戦ったのだ。

1776年のアメリカ独立宣言は、アメリカにとって輝かしいだけではない。当時世界では当たり前だった王国と王政、そして身分制度を否定した、市民革命だったのである。こうして近代世界で最初の共和国を樹立したのだった。

──以上のことは、アメリカのみならず、欧州や日本の教科書にも「民主主義の歴史」として描かれている内容だ。

これを否定しようとする試みだから、反発が出るのは当然だと言えるだろう。

同マガジンのシルバースタイン編集長は、編集者のノートの中で書いている。最初の黒人奴隷を乗せたホワイト・ライオン号がアメリカに到着してから250年の間、アメリカで続くことになる野蛮な奴隷制というシステムについて、「時々、国の原罪とみなされているが、それ以上のものです」、「それはこの国の原点です」と。

トランプ氏の「愛国教育」とは何か

トランプ大統領(当時)と共和党は、「1619年プロジェクト」に対抗する案を考えた。

同プロジェクトの開始から約1年後の2020年9月17日、米国憲法調印233年の祝いの席で「1776年委員会(The 1776 Commission)」の創設プランを発表した。

1776年とは、前述したように、アメリカ独立宣言の年である。

この委員会は、公立学校に「愛国教育」を創設する目的で設置されるのだという。

場所は、独立宣言、米国憲法、権利章典の原本が保管されている国立公文書館だった。

トランプ大統領は、アメリカの子供たちに 「偽物の歴史ではなく、本当の歴史を教える」ためのものだと説明した。

「アメリカの歴史の奇跡を子供たちに教え、(2026年には、独立宣言の1776年から数えて)建国250周年を記念する計画を立てるように、教育者に奨励する。若者に『アメリカを愛すること』を教えることになるだろう」と述べた。

さらに「左派はアメリカの物語を歪め、汚してきた。私たちは、息子や娘たちに、自分たちが世界の歴史の中で最も例外的な国の市民であることを知ってもらいたい」と付け加えた。

そして「非常に大きな基金」を設立するために、アメリカ版TikTokを作っている企業から50億ドルの資金を求めていると述べた。

現役大統領のプランにもかかわらず、税金を投入して始めるのではなく、自発的な私営基金を基礎にして、委員会をつくるところから始めようとするのが、実にアメリカらしい。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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