コラム

なぜトランプは根強く支持されるのか──歴史観と人種問題に見るバイデンとの対立

2021年03月01日(月)17時25分

実際には、南部の英雄像の問題は、2020年の警官による黒人殺害事件のずっと前から起こっていた。

南部の人たちにとっては、南部同盟の将軍たちは、郷土のために戦った英雄だった。それでも南部英雄像は、オバマ大統領が登場し、黒人への差別反対が増しにます時代の流れで、撤去される傾向にあった。

それに対して、猛反発して過激化した白人至上主義者が台頭し始めた。

トランプ大統領時代の2018年、バージニア州シャーロッツビルで起こった事件は有名だ。白人至上主義者の集会で非常事態宣言が出され、死者が出たのだ。

上記ビデオで、知事が「家に帰れ」「恥を知れ」と言っている。なぜなら、白人至上主義者たちは住民ではないからだ。

トランプ大統領は「どちらも悪い」と言ったが、わざわざ集会のためによそからやってきて、ナチス式の敬礼をし、人種差別の言葉を発しながら行進をしていた人々を擁護しているという批判が出ていた(トランプ大統領は否定)。

『ニューヨーク・タイムズ』紙が「1619年プロジェクト(The 1619 Project)」を始めたのは、このような混乱の渦中にあるアメリカだった。

「1619年プロジェクト」とは何か

1619年とは、奴隷になった最初のアフリカ人が、英国植民地時代のバージニア州・ジェームズタウンに到着した年のことである。

彼らは「ホワイト・ライオン(白いライオン)」号に乗って連れられてきた。8月のことだった。

「1619年プロジェクト」とは、この400周年を記念して、2019年に『ニューヨーク・タイムズ』紙が立ち上げた、特別な取り組みである。

同紙はいう。「このプロジェクトは、奴隷制度の結果と、黒人のアメリカ人たちの貢献を、私たちの国の物語の中心に置くことによって、歴史の枠組みをつくりなおすことを目的としています」

発起人は、同紙のジャーナリストであるニコール・ハンナ=ジョーンズ氏である。彼女はオバマ元大統領と同じく、父親が黒人で母親が白人の「黒人」である。

始まりは、2019年8月14日、毎週日曜日に同紙についてくる「マガジン」だった。100ページに渡って、10人の文章や、写真、詩や創作などが掲載された。

マガジンの表紙には、次のように書かれている。


1619年8月、一隻の船が地平線に現れた。ポイント・コンフォートの近く、英国植民地だったバージニア州沿岸の港でのことだった。

この船は、20人以上の奴隷を連れてきた。彼らは入植者たちに売られたのだ。

アメリカは、まだアメリカではなかった。しかし、これがアメリカが始まった瞬間だった。

250年続いた奴隷制は、この国で形作られてゆくいかなる国の側面にも、影響を与えてこなかった。

400周年という、運命を決するこの時こそが、ついに私たちの物語を正直に語る時なのだ。

このマガジンは、何十万もの図書館やミュージアムに送られた。そして、プロジェクトはどんどん拡大していった。本誌での掲載、ポッドキャスト(ネット上の音声や動画)のシリーズ、ピューリッツァー・センターとの共同作業による、無料の学校で行うカリキュラムの開発まで。発表後、たった7カ月でここまで達成した。

ハンナ=ジョーンズ氏は、2020年にピューリッツァー賞コメンタリー部門賞を受賞した。

なぜ猛反発が起こったのか

1619年プロジェクトの中で語られ、最大の猛反発をかったのは「アメリカへの(白人)入植者が、英国からの独立を宣言した主な理由の一つは、奴隷制度を守りたかったからだ」という主張である。

つまり、アメリカ独立革命は、奴隷制度を維持するために起こった。奴隷制度は国家のDNAに組み込まれていたため、真の建国は1619年であった──という主張である。

ここが最大の猛反発と共に、批判も受けた個所である。「当時、英国では奴隷制度は当たり前だった」「史実に反する」と。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story