コラム

なぜトランプは根強く支持されるのか──歴史観と人種問題に見るバイデンとの対立

2021年03月01日(月)17時25分

「左派がアメリカの物語を歪めてきた」とトランプは訴える(2月28日、フロリダ州オーランド) Joe Skipper-REUTERS

<人種や属性を理由とした機会不平等の是正を誓うバイデンと、「白人・キリスト教徒のアメリカの物語」に固執するトランプの文化戦争>

トランプ前大統領の動静は、いまだに注目の的である。

彼に対する評価は、いまだに真っ二つに割れている。

トランプ氏を過去の人間と思わせるのに十分な世論調査の数字や報道もあれば、全く逆で、共和党内だけではなく一般社会でも根強い支持を示す調査や報道もある。これほど世論調査があてにならない事態も、そうそうあるものではない。

一般の日本人から見ると、とても信じられないような感じがする。トランプ支持者は、連邦議会議事堂を暴力で襲撃さえした。中には、カルト集団のような人たちも加わっている。もちろん、彼らは支持者のごく一部ではあるが。

なぜこれほどトランプ氏は支持されるのだろうか。

今アメリカを襲い、国を二分している問題は、大変深刻な問題だ。それは人種問題であり、アメリカ建国の意味を変えそうな根源的な問題となっている。

今までの「常識」をくつがえしかねないほどのこの大論争は、「文化戦争」と呼ばれている。

この物語は、アメリカ史上初の黒人大統領、バラク・オバマが登場したことから始まっている。オバマ氏の登場は、何百年にもわたるアメリカ社会の「基礎」をくつがえした。基礎とは「白人のキリスト教徒のアメリカ」だ。

トランプ大統領の時代は、オバマ時代に対する猛反発の時代だったと言えるだろう。そしてそれは、今でも続いている。

反発するアメリカ人を常に支えてくれる、並外れて強い指導者がトランプ氏である。

そんなトランプ前大統領が掲げたのが「愛国教育」だった。この政策を見ると、なぜこれほどトランプ支持が根強いのか、大きな理由の一つを明確に見て取ることができる。

しかし、バイデン大統領は、トランプ前大統領が創設した「愛国教育」プランを中止した。

正確には、「愛国教育」を推進するために作られた委員会を解散する──というものだ。バイデン氏が大統領になるとすぐに署名した、執行命令のうちの一つである。

以下に、何がアメリカに起こっているのか、詳しく説明したい。

黒人と反発する白人の対立

大きな転機となったのは、2020年5月、ミネアポリスで黒人のジョージ・フロイド氏が警察に拘束されて殺害されたことだ。

録画された動画は、ネットで全米中に拡散され、全国でデモや抗議活動、暴動すら起きた。これは大規模な「Black Lives Matter(黒人の命は大事)」運動に発展してゆき、外国にも波及した。

そのようなうねりの中、全米各地で「黒人差別的」とみなされた歴史的な銅像や記念碑が破壊されるようになった。

アメリカ南部の英雄の銅像は、典型例だ。

19世紀中頃の南北戦争(『風と共に去りぬ』で有名)では、「南部同盟」は、農業にとって必要な労働者である黒人の奴隷制を支持した。結局、工業が発達していた北部が勝利して、南部同盟は敗北した。北部を率いるリンカーンは、黒人奴隷を解放した。

この銅像が、「奴隷制支持者」として、攻撃の対象になった。

それだけではない。アメリカ建国の偉人達として尊敬されてきたはずの、初代ワシントン大統領、第3代ジェファソン大統領についても「生前に奴隷を所有していた」等と批判された。一部地域では銅像や記念碑が破壊された。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story