コラム

コロナ後の新しい五輪モデルは「2024年パリが示す」と仏意欲 東京には何ができるか

2020年05月18日(月)14時35分

2024年オリンピックの開催地に選ばれ、お祝いに沸くパリ(2017年9月16日) Benoit Tessier-REUTERS

「昨日のオリンピックは、明日のオリンピックではない」

そう語って「オリンピック改革」を提唱したのは、フランス人のギィ・ドゥリュ(Guy Drut)氏である。

東京オリンピックの次、2024年の五輪は、パリで開催予定である。

日本人にとっては「東京五輪でさえ1年の延期で済むかどうかもわからないのに、次のパリなんて」と思うかもしれない。しかし、東京五輪の延期と新型コロナウイルスの影響は、「パリ2024」にとっても大問題なのである。

ギィ・ドゥリュ氏は、1996年から国際オリンピック委員会のメンバーを務めている。元々は陸上選手で、1976年のモントリオール五輪で、110メートル・ハードルの金メダルを獲得した。引退後は政治家に転身、シラク大統領のもとでスポーツ大臣を務めた。

彼は4月26日、フランスの公共放送グループ「France Info」で、オリンピックについての意見(トリビューン)を発表した

「2024年の候補者として描いた美しい我々のプロジェクトは、時代遅れです。過ぎ去ったものであり、現実とはかけ離れています」と語っている。

一体、ドゥリュ氏は何を言いたいのだろうか。

新しいモデルの創造

まず彼は、今の危機がいかに大きいものかを述べている。


私達がいま経験している危機は、私たちの日常、私たちの生き方、私たちの経済、私たちの社会の協定、私たちの社会の選択に、持続的な影響を与えることを、それぞれの人が理解しました。

実際、この危機のために、私たちは生まれ変わる(直訳では「自分自身を再び創る」)ことを余儀なくされています。それは必須なのです。危機というのは、差し迫った必要をもたらすものだし、もたらさなければなりません。


この危機への対応は、単なる日付けの延期となるでしょうか。経済的および組織的なモデルも深く考え直すことはないでしょうか。東京五輪の延期はたいへん高額となるでしょう・・・例えば共同通信の見積もりによると、約3000億円規模(原文:約30億ドル)ということです。

さらにドゥリュ氏は、「一緒に新しい五輪モデルを想像しなければなりません」と訴えている。


例えば、規模の経済を実現するために、いくつかの競技では場所を分散させてはどうでしょうか。 (訳注:「規模の経済」とは、生産量を増やすとコストが減少して、収益率が向上すること)。

そうすれば、主催国がどこであっても、特定の競技を1つの同じ会場で実施して聖域のようにすることが出来るでしょう。たった3日か4日の試合ために新しい設備を建設することは、非常に高くつきます。

サーフィンを例にとりましょう。会場は常に同じで、例えばタヒチやハワイとすることができます。カヌー・カヤックについても同じことが言えます。この競技には、毎回、人工河川を建設する必要があります。この場合でも、既存の会場を再利用できます。

こうして一つのサイトを決めれば、節約になるというのである。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

債券ファンドへの資金流入額、21年7月以来最大=B

ビジネス

当局調査の金融機関名、調査終了前の公表を英中銀総裁

ワールド

フィリピン、中国外交官の追放要求 「悪意ある情報」

ワールド

アングル:米のイスラエル武器支援停止、4月の首脳会
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカネを取り戻せない」――水原一平の罪状認否を前に米大学教授が厳しい予測

  • 4

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 5

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 6

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 7

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story