コラム

はるか昔、地球にも土星のような「リング」があった可能性 隕石が落ちた場所の偏りが証拠に?

2024年09月20日(金)21時20分

隕石は、通常であればランダムな位置に落ちるはずなので、クレーターは地球上に偏りなく存在するはずです。けれど、オルドビス紀中期にできたクレーターは、当時の赤道付近に集中しているように見えました。トムキンス教授らはクレーターの位置を精査することにしました。

と言っても、海底のクレーターを探ることは困難です。さらに陸地についても、オルドビス紀には現在のアフリカ大陸、オーストラリア、南米大陸、南極大陸、インドを含むゴンドワナ大陸が存在していたなど、現在の大陸の形や分布とはまったく異なっていたと考えられています。

研究チームは、まず、オルドビス紀中期より前に作られた古い大陸(クラトン)に注目し、アメリカ地質調査所(USGS)の地理データや、地理データ分析ソフト(QGIS)を使って、大陸面積を計算しました。次に、プレート構造再構築モデルを使って当時の大陸位置を再現しました。

その結果、クラトンのうち、オルドビス紀中期に赤道付近にあったものは面積比で約3割しかなく、残り7割は中・高緯度にあったことが分かりました。ところが、現在見つかっている隕石衝突が急増していた時期の21個のクレーターが、衝突当時は地球上のどこにあったのかを調べてみると、すべて赤道から約30度以内の低緯度領域に集中していることが分かりました。

赤道への落下集中が偶発的に起きる可能性は2500万分の1と計算されました。つまり、「当時の地球には、赤道付近に隕石が落下する特別な仕組みがあった」ことが示唆されたのです。

「ロッシュ限界」を突破した小惑星

そこで、トムキンス教授らはこのような仮説を立てました。

オルドビス紀に、比較的大きい小惑星が地球に接近しました。この小惑星はそのまま一気に地球に落ちることはありませんでしたが、「ロッシュ限界」を超えて内側に入りました。

ロッシュ限界とは、小惑星や衛星などの天体が破壊されずに他の天体に接近できる限界の距離のことです。地球に近づいたこの小惑星は、この限界を突破したため、地球の潮汐力で壊されてしまいました。

その後、粉々になった小惑星の断片は地球の重力に捕獲され、赤道上空近辺にリングを作りました。リングを形成する物質は、数百万年から数千万年かけて、徐々に地球に落下しました。そのうち、大気圏で燃え尽きなかったものが、当時の赤道直下に残されたと言うのです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

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