コラム

はるか昔、地球にも土星のような「リング」があった可能性 隕石が落ちた場所の偏りが証拠に?

2024年09月20日(金)21時20分
大きなリングのある地球

リングの構造と形状を明らかにするには、数値モデルの専門家らとの協働が不可欠(写真はイメージです) Dotted Yeti-Shutterstock

<仮説を発表した豪モナシュ大の研究チームは、何をもって「地球の環」の存在を確信するに至ったのか。この仮説によって説明できることとは?>

太陽系の惑星は、巨大な木星、赤い火星、自転軸が横倒しになっている天王星など、それぞれに特徴があります。中でも大きなリング(環[わ])のある土星は、子供の頃に図鑑で再現イラストを見て、その神秘的な姿に心惹かれた人も多いのではないでしょうか。「なぜ土星にはリングがあるのに、地球にはないの?」と不思議に思った人もいるかもしれません。

オーストラリア・モナシュ大の研究チームは、「約4億6600万年前の地球にはリングが存在していた」との仮説を発表しました。その発端は、大型小惑星の地球への接近だったと言います。検証や考察は、地球科学系の学術誌『Earth and Planetary Science Letters』に12日付けで掲載されました。

研究チームは、どのような証拠からリングの存在を確信したでしょうか。過去の地球は、リングがあることによって、どのような影響を受けていたのでしょうか。概観してみましょう。

「オルドビス紀の衝突急増期」の謎

4億6600万年前の地球は、地質年代では古生代の区分の一つであるオルドビス紀(約4億8830万年~4億4370万年前)に当たります。この時代は、オウムガイのような軟体動物や三葉虫のような節足動物が栄えていました。オルドビス紀末には、生物の大量絶滅が起こったことでも知られています。

加えて、この時期には、「オルドビス紀の衝突急増期(Ordovician impact spike)」として知られる謎があります。4億6600万年前頃を起点としたオルドビス紀の数千万年の間だけ、地球への隕石の衝突回数が激増しているのです。

その証拠として、世界各地に残る衝突クレーターの年代を調べると、オルドビス紀中期のものが多く見つかります。また、世界中の複数の場所で石灰岩の地層中に含まれている微小隕石を調べてみると、オルドビス紀の「L型コンドライト」と呼ばれる隕石は、他の時代の隕石よりも2~3桁、数が多く見つかることが報告されています。

これまでは、隕石増加の原因は、火星と木星の間にある小惑星帯の中でL型コンドライトの母天体がオルドビス紀に分裂し、破片が地球まで降り注いだため、などと説明されてきました。

今回、モナシュ大地球・大気・環境学部のアンドリュー・G・トムキンス教授らは、オルドビス紀中期のクレーターの位置に奇妙な法則性があることに気づきました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ空軍が発表 初の実

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁

ビジネス

大手IT企業のデジタル決済サービス監督へ、米当局が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 10
    70代は「老いと闘う時期」、80代は「老いを受け入れ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story