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人間だけではなかった...「エピソード記憶」を使って計画を立てられるコウモリがいると判明 「後天的スキル」であることも明らかに
(写真はイメージです) Independent birds-Shutterstock
<中東からアフリカに分布するエジプトルーセットオオコウモリは「過去の記憶を使って現在の採餌に活用している」と、テルアビブ大動物学部のヨッシ・ヨベル教授らによる研究で明らかになった。一体どう解明したのか。それだけではない驚くべきコウモリの認知能力とは?>
「高校生の時に湘南の海に行って楽しかったから、今年は10年ぶりにまた行こう」──このように「エピソード記憶」を使って計画を立てる能力は、長年、人間だけが持つものと考えられてきました。
エピソード記憶は、個人が経験した出来事に関する記憶です。何を経験したかという出来事の内容に加えて、時間、場所といった経験したときの周囲環境や、そのときの感情などが共に記憶されるため、複雑で高度な認知能力とされます。
2000年代になると、「ヒト以外の動物は、エピソード記憶を持ち活用しているのか?」という問いは、たびたび議論されてきました。しかし、動物には直接的な聞き取り調査ができないので、解明は難航しています。
イスラエル・テルアビブ大動物学部のヨッシ・ヨベル教授らによる研究チームは、エジプトルーセットオオコウモリ(Egyptian fruit bat)が餌を摂るための飛行計画に、エピソード記憶のようなもの(episodic-like memory、エピソード的記憶)を活用していることを明らかにしました。研究成果は生物系科学誌「Current Biology」に6月20日付で掲載されました。
研究者たちは、どのようにして「コウモリはエピソード的記憶に基づいて行動している」と分かったのでしょうか。また、チームが観察したさらに驚くべきコウモリの認知能力とは何なのでしょうか。概観してみましょう。
「ココウモリ」と「オオコウモリ」の違い
コウモリは世界中で繁栄している哺乳類です。南極大陸以外の全大陸に分布するだけでなく海洋島にも生息しており、世界で1000種以上が見つかっています。
日本では、近年の外来種を除く約100種の哺乳類のうち約35種をコウモリ類が占めており、最も種類の多い哺乳類となっています。
一方、コウモリはココウモリとオオコウモリに大別され、特徴が異なっています。ココウモリ類には、虫、植物、血液など様々な食性の種がおり、超音波を使って障害物を避けたり獲物を見つけたりする能力(反響定位)があります。オオコウモリ類は、ほとんどが反響定位はできず、果実を好むため害獣として扱われることもあります。日本では、ココウモリは全国に分布していますが、オオコウモリは小笠原諸島と南西諸島にのみに生息しています。
今回、ヨベル教授らは「動物は過去の経験を活かして将来の計画を立てられるのか」の謎に挑むために、大学施設のI. マイヤー シーガルズ動物研究園に住み着いている野生コウモリ、エジプトルーセットオオコウモリを使うことにしました。
このコウモリは、中東からアフリカに分布し、通常は20~40匹でコロニー(群れ)を作って洞窟やマングローブ林で暮らしています。体長12~19センチ、体重100~150グラムと小柄ですが、オオコウモリの仲間では例外的に反響定位を行うことができます。バナナやマンゴーが好物で、コウモリ1匹当たり1日に数十種の果樹を訪れて食事をします。
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