モンゴル拉致未遂事件は米トルコ危機の予兆だった
エルドアンがアメリカに引き渡しを求める米在住のギュレン師 REUTERS
<ウランバートルの空港で起きた緊迫のギュレン派拘束劇――エルドアンの傍若無人さは世界を混乱させている>
トルコのエルドアン大統領はここのところユーラシア世界でも暴走し、その盟友を困らせている。一例を挙げよう。
7月27日。ウェイセル・アクサイ(50)はいつものようにモンゴルの首都ウランバートルのアパートから、勤務先の学校へ向かおうとした。すると間もなく屈強な男数人に囲まれ、チンギス・ハン空港へと拉致された。
空港の隅に外国の飛行機が一機、目立たないように止まっている。男たちは外交特権を持つ車で保安検査を受けずにタラップ近くまで疾走し、そのまま機内に入った。
飛行機はやがて滑走を試みたが、管制塔から待ったがかかった。アクサイの家族が警察に通報したからだ。強行突破をもくろむ飛行機とモンゴル警察当局との対峙は8時間に及んだ。その間にモンゴルのバトツェツェグ副外相はトルコ大使館に抗議の電話。ツォグトバータル外相もトルコのチャブシオール外相と電話会談し、真意を聞き出そうとした。だがトルコは最後まで関与を認めようとしなかった。
拉致されそうになったアクサイは、「トルコ学校」の教師だった。多様な宗教と外来文化に寛容なモンゴルには、カナダ学校やイギリス学校、コリアン学校と呼ばれる各国の学校が林立する。人口わずか300万人の遊牧の国で、外国の学校に入れる生徒の数も知れている。
トルコ諜報機関員が潜伏
それでも各国は存在感を示そうと、経済効果を度外視してウランバートル進出をためらわない。13世紀に大帝国を創設したチンギス・ハンの故国への敬意だけではない。中国とロシアのはざまに位置するモンゴルにいれば、大国の動向が手に取るように見えるからだ。かつて社会主義国で存在感を示したモンゴルは、冷戦後に自由主義陣営の一員になってから、学校の進出先として人気がさらに高まった。
問題は、アクサイがトルコ政府派遣の教師ではないことだ。彼は、アメリカで実質上亡命生活を送るトルコの宗教指導者フェトフッラー・ギュレン師を奉じるメンバー。ギュレン派は日本など各国に学校を設置し、慈善事業を通してイスラム復興を掲げている。モンゴルにも社会主義体制が崩壊した90年代から進出した。
ギュレンは一時、イスラム色の強いエルドアンと蜜月関係にあったが、その後はたもとを分かった。16年7月に首都アンカラなどで起きたクーデター未遂事件も背後でギュレンが糸を引いていた、とエルドアンは主張。アメリカに身柄引き渡しを求めているものの、一向に実現しない。直接、諜報機関員を各国に潜らせては、ギュレン派分子を拉致しようとしているという。
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