向かうところ敵なしの習近平に付ける薬もなし
全人代で憲法に手を置き宣誓する習近平国家主席(3月17日) Thomas Peter-REUTERS
<アメリカ大統領を気取った異例の憲法宣誓式の茶番――革命の大義も失い自分ファーストになり下がった中国の行方>
自らの名前を冠した思想が書き込まれた憲法に手を置いて、「人民による監督を受け入れる」と宣誓する。何ら監督権がない当の人民にはしらじらしいが。習に続いて、一旦は政界から身を引いて平の党員となった盟友が同様な儀式を行う――。3月17日に全国人民代表大会で習近平(シー・チンピン)国家主席と王岐山(ワン・チーシャン)副主席が演じた茶番劇だ。
中国の歴代指導者はこれまで憲法に宣誓する儀式を行ってこなかった。こうしたパフォーマンスはかつて敵視した「アメリカ帝国主義」の猿まねだ。米大統領は聖書に手を置いて憲法への忠誠を神に誓う。だが習と最側近の王は憲法に手を置いても実際には恐れるべきものなどない。何しろその憲法は、「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」と自身の名を飾るなど、万事、習が終身制に基づき独裁を敷くための紙くずだ。
誰かが反対すれば、習の右腕として政敵の一掃で尽くしてきた王がすぐさま粛清の刀を振り下ろすのは目に見えている。全人代では習の主席再選は満場一致の賛成で、王の副主席選出に反対は1票だけ。しゃんしゃんの度合いを過ぎて、そのうち王朝時代のように平伏して、「皇帝陛下万歳」と叫ぶのも時間の問題だろう。
建設的関与という空想
3月19日付の中国共産党機関紙「人民日報」は社説で習を「中国人の舵取り」と称賛。かつて習の「師匠」毛沢東は「偉大な舵取りにして偉大な導師、偉大な領袖」と賛美されていた。習にも「導師」「領袖」の称号が早晩、使われるだろう。
習の中国を世界史上、どのように位置付けるべきだろうか。
第1に、革命的であるはずの中国共産党が実は「反革命的」であることだ。現代の世界は89年に起きた世界規模の民主化を1つの起点としている。それまでは世界全体が共産主義と資本主義という東西陣営に分かれていたが、東側の民主化運動で共産主義体制は崩壊した。
その際、「ロシアのくびき」につながれていた中央アジアの諸民族は独立し、民族国家を建設。その法的根拠となったのがソ連憲法だ。民族自決権を承認したマルクス・レーニン主義に基づいて、ソ連憲法は当初から諸民族に分離独立権を与えると定めていた。中央アジアの諸民族もその権利を行使して民族自決が実現できた。
一方、中国は89年6月4日に民主化を求める市民と学生を武力で弾圧して以来、世界の潮流と完全に逆行していった。民主化や民族自決どころかますます専制主義体制を強化して今日に至った。
その集大成として誕生したのが「習近平憲法」だ。マルクス・レーニン主義の思想を実践したソ連に対し、それと逆行する中国共産党は党名にふさわしからぬ封建的な「反革命」政党としか言いようがない。
第2に、中国の対外政策は反グローバリゼーションだということだ。グローバリゼーションとは、ものや情報、思想の自由な越境を意味する。どの国もたまに保護主義に傾斜する指導者が現れるが、グローバリゼーション自体には抵抗できない。
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