コラム

マクロン新政権の船出―国民議会選挙の光と影

2017年06月21日(水)17時20分

Julien de Rosa-REUTERS

<フランス国民議会選挙(第2回投票)の結果、マクロン与党一強の時代が出現した。今後、マクロン政権の成否は、「フランス的なヨーロッパ」を取り戻すことができるかにかかっている>

マクロン新大統領選出以降、フランスは劇的な政界再編を迎えている。6月18日に行われた国民議会選挙(第2回投票)は、そのことを如実に示す結果となった。

マクロン大統領が立ち上げた新党「前進する共和国」が308議席を獲得し、連立を組む民主運動(MoDem)の42議席と合わせると、全議席577の過半数を大きく上回る350議席を占め、安定的政権基盤を確立した。

一方、大統領選挙に引き続き、これまでフランスの政治の中枢を占めてきた2つの大政党の凋落ぶりが改めて明らかになった。共和派は113議席にとどまり、協力関係にある民主独立派連合(UDI)の17議席と合わせても130議席と過去最低のレベルに後退した。社会党も、友党である急進左翼党と合わせても33議席と、歴史的惨敗を喫した。

こうした既成政党の凋落の反面、メランション元大統領候補の支持母体となった「不服従のフランス」は、協力関係にある共産党と合わせると27議席を獲得し、ルペン元大統領候補の国民戦線は8議席を獲得した。大きな数とは言えないが、これまで2大政党のはざまで、存在感を示せない境遇にあったことと比べると、一定の前進であることは間違いない。

yamada020170621a.jpg

いずれにせよ、マクロン与党一強の時代がこれから5年間、議会解散さえなければ、続くことになる。

こうした安定的基盤を議会において確立したことで、マクロン大統領は、公約に掲げていた労働法制の改革・規制緩和、社会保障制度改革、企業の競争力強化、EUの改革などを積極的に推進していくとみられる。

マクロン政権と与党がこれらの政策を実行していくにあたり、国内において抵抗勢力となるのは、もはやこれまでのような左右の対立軸上での野党ではない。今回の国民議会選挙では、右の共和派にも左の社会党にも、政策面においてマクロン与党との親和性をもつ議員(候補)がいることが明らかになった。

プロフィール

山田文比古

名古屋外国語大学名誉教授。専門は、フランス政治外交論、現代外交論。30年近くに及ぶ外務省勤務を経て、2008年より2019年まで東京外国語大学教授。外務省では長くフランスとヨーロッパを担当(欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使など)。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を

ワールド

米関税措置、WTO協定との整合性に懸念=外務省幹部
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story