コラム

マクロン新大統領の茨の道-ルペン落選は欧州ポピュリズムの「終わりの始まり」か?

2017年05月08日(月)11時30分

こうした悩ましい選択の結果、フランス国民が選んだフランスの形は、マクロンが提示したリベラル(多文化主義、移民に寛容、弱者保護)で開かれたフランス(欧州統合推進、グローバル化、自由貿易・競争を重視)ということになった。しかし同時に、決選投票でマクロンに投票したフランス国民の中には、メランション支持者のように、グローバル化とEUに反対の人たちもいるし、フィヨン支持者のように、保守的で移民規制の強化を望む人たちもいる。そういう人たちのマクロンへの投票は、決して全権白紙委任というわけではない。また、そうした点で譲歩してマクロンに投票することをよしとしない(ルペンは嫌だが、マクロンも嫌だという)人たちは棄権に回ったと推定される。その数(棄権者数)は実に約1,204万人(全有権者の25.38%)にのぼる。これに加えて、白票がおよそ300万人(同6.34%)、無効票がおよそ106万人(同2.24%)も出た。

yamada4.jpg

一方、ルペンに投票した人が約1,064万人(33.94%)も出たことは、保守的(フランス固有の文化や伝統・秩序を重んじ、移民に厳しい)で、閉ざされたフランス(グローバル化反対、保護主義、反EU)に固執するフランス人が、相当存在していることを示している。しかも、その数は、大統領選挙における国民戦線の候補の得票の伸び(下表)が示す通り、年を追うごとに増えてきており、今後も大きな勢力として強い影響力を持ち続けるということを示唆している。

yamada5.jpg

こうして見てくると、マクロン新大統領にとっては、2回投票制のおかげで獲得した66%に見合うほどの国民の支持と委任を受けたわけでは決してないということが分かる。もともと、全有権者の中でいえば、第1回投票では18.19%、決選投票でも43.63%の支持しかなかったことも考え合わせると、マクロン新大統領の支持基盤は盤石とは言い難く、むしろ前途は茨の道だ。

マクロン新大統領の課題

従って、新大統領としての最大の課題は、リーダーシップをいかに確立できるかにある。そのためには、6月11日(第1回投票)と18日(第2回投票)に行われる国民議会選挙で、自身を支持する勢力(現時点では「さあ前進!」)が過半数の議席を獲得し、議会多数派となることが必要だ。フランスの大統領は、首相を任命し、二人三脚で政権運営をしていく仕組み(「半大統領制」とも呼ばれる)になっているが、首相は国民議会からの信任を得なければならないことから、議会での多数派を獲得することが不可欠なのだ。それに失敗すれば、マクロン大統領は就任早々、他の政党との連立(「コアビタシオン」と呼ばれる。元々は「同棲」という意味)を余儀なくされ、指導力を削がれることとなる。

プロフィール

山田文比古

名古屋外国語大学名誉教授。専門は、フランス政治外交論、現代外交論。30年近くに及ぶ外務省勤務を経て、2008年より2019年まで東京外国語大学教授。外務省では長くフランスとヨーロッパを担当(欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使など)。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インド製造業PMI、3月は8カ月ぶり高水準 新規受

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

ユニクロ、3月国内既存店売上高は前年比1.5%減 

ビジネス

日経平均は続伸、米相互関税の詳細公表を控え模様眺め
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story