イタリア事情斜め読み
タトゥーで警察官が処分から見るイタリアのタトゥー事情
表彰されたヒロインが2時間後に職務停止の停職処分
警察官は制服を着た際、おおむね夏制服(半袖)着用時に隠れる位置ならば容認されてきたタトゥーであったが、アリアナの手首には、18歳の誕生日に彫ったハート型のタトゥーがあり、明らかにそれは目で見てとれた。
イタリアでは刺青(タトゥー)がある者は、法律により警察に入ることが許可されない。
どんなに小さな領域に掘られた物であっても、刺青(タトゥー)が制服で覆われていない体の部分で可視化されている場合は、規程違反であり、警察官であるものには不適切であるとされ処分の対象となる。
アリアナは警察官の制服を着用するのに適していない審美的デメリットがあると判断され、停職処分を受けた。
同時に功労賞の表彰も無効取り消しとなった。
その後、
3月に銃と警察バッジの返納を余儀なくされた。
警察学校の入隊前には「刺青が無い、規程に違反していない」ということを宣誓する必要があり、事前の身体検査で刺青(タトゥー)があるかの検査もある。
もしも、あった場合は入隊前に除去か、除去をしない場合は不合格となるのが実情だが、どうして警察官採用試験に合格しているのだろうか。
もちろん、選考候補者は刺青を隠し虚偽の宣誓をしてはいけない。
アリアナは検査に合格し、警察学校に入ることが決まった時に、刺青の除去手術をしたと言う。
のちに、これが裁判における重要な争点となる。
彼女は、すぐさま停職は不合理で不当な処分であると主張し、
自分の勤務していた州警察のトップである国務院を相手どり警察官の身分の回復と復職を要求する訴訟を起こした。
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アリアナは、
「私は、裁判費用と弁護士費用を払うために車を売却しました。私には8歳の息子がいて育てていかなければいけないのです。慰謝料や補償を求めてはいません、ただ、息子のためにも復職し制服を着て地域のために貢献したいだけ。私には警察官になる権利があり、正義を求めています。」と、話した。
彼女が訴えの中で主張している内容は、警察官の採用試験を受けた2018年にはすでに手首の刺青はレーザーによる除去手術を9回受け、既に取り除かれていたという事。
痛みを伴う9回のレーザー除去手術は一回200ユーロ(約2万5千円)で、合計費用は1,800ユーロ(約22万5千円)を支払ったと言う。
*イタリアの警察官(職務経験2年目から)の平均月収は1,350〜1,400ユーロ(約17万6千円)である。
アリアナの手首には傷跡がほとんど見えない。
"停職処分を通知された時に彼女の手首に刺青が入ってあったのか"
9回に分けて除去手術を受けた時期と停職処分を受けた時期のタトゥーの痕についてが焦点となり、時系列に追って証拠資料を提出したアリアナ。
行政裁判官は「停職処分の時期の段階で除去されていたものではなく、9回の除去手術が完了し完全に刺青が取り除かれていたと主張するに値する証拠書類としては不十分だ」としてアリアナの訴えを退けた。
しかし、アリアナはあきらめなかった。
彼女が法廷が始まるとき、
「どうやら、法律は誰にとっても平等でないようですね。私より目立つ刺青をしている同僚はたくさんいます。その同僚らの写真を送ります。私は、手首に小さな傷があるだけです。」と主張しはじめたから驚きである。
訴えが通らず裁判に敗北したアリアナへの取材インタビューで、「国務院の裁判官の中に刺青に対する最も柔軟性のないセクションがあり、そこに警察組織の最高責任者がいるだからこういう判決になるわけよ」と敗因について答え、イタリアのズブズブな判検交流(はんけんこうりゅう)、裁判所や検察庁において、一定期間、裁判官が検察官になったり、検察官が裁判官になったりする人事交流制度を批判した。
そして、彼女は、除去した刺青(タトゥー)の傷痕でも法律によって処分を適応された一連の闘争劇について、
「若い世代のイタリア人にとって、タトゥーを持っている事はスマートフォンを持っているのと同じくらい普通一般的な事であるのに、国家に奉仕する身であった私が、時代錯誤の古い規範と法律によって不合理に除外された。国家にとってそれは良いことではないと、先験的立場を持って今後とも発信していきたい。辞任するつもりはなく、まだ裁判で戦っていく」との意向をSNSやマスコミのインタビューで答えている。
著者プロフィール
- ヴィズマーラ恵子
イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie