ドイツの街角から
最新作は180万円の「鯉」 ベース製作の革命児イェンズ・リッター氏に聞く
ベース製作の革命児として世界のトップミュージシャンから絶大な支持を得るイェンズ・リッター氏(49歳)の最新作は「鯉」。名前の由来は?そしてどのような背景から作品を製作したのか?と興味を持ち、取材を申し込んだ。
「1月下旬から2月上旬は毎年、作品出展のため米国にいます。しかし、世界最大級の楽器・音楽機材展示会(NAMM・開催カルフォルニア州アナハイム)は今年、中止となったため工房で作業中です。時間とれますよ、ラッキーでしたね」と即答をもらい、早速リッター氏に電話とメールでお話を伺った。
「リッターベース(同氏製作のオリジナルベースやギターの総称)」は、レディー・ガガ、マドンナ、ジョージ・ベンソン、クリスティーナ・アギレラなど世界のトップミュージシャンをはじめ、多くのファンを魅了するデザインもサウンドも最高峰の作品だ。近年は、コレクターの投資する美術品としても注目を集めている。
コロナ禍で注文殺到
いつもなら作品のプレゼンテーションや見本市、あるいは完成品を顧客に届けるため世界各地を飛び回っているリッター氏。だが昨年から続くコロナパンデミックにより、現在はほとんど工房にこもり、製作に没頭しているという。
同氏の経歴や活動内容は後ほど紹介するとして、まずは最新作の「鯉」について聞いた。
「コロナ禍とはいえ、注文は減るどころか増える一方です。豪華な海外旅行、あるいはロックダウンで店舗も閉鎖となり、宝石や高級時計など気ままに購入することも出来ない富裕層は、持て余しているお金を投資に回し、『リッターベース』を買い求めるようです」
「例えば最新作の『鯉』もそのひとつ。スイスに住む男性客は、大の鯉好き。自宅で飼っているお気に入りの鯉をデザインしたエレキギターが欲しいという依頼でした」
「まず、鯉の写真を送ってもらい、それをもとにフォリエを作りました。フォリエをギターのボディに張り付け、その上から天然ニスを何層も塗装しました。ですが、仕上げに二スを塗る作業ははじめてだったことから、客の満足する、そして製作者として納得できる作品が仕上がるまで試行錯誤でした。そのため完成には2年かかりました」と、リッター氏は一気に説明してくれた。
「鯉」の価格は14,000ユーロ(約180万円)。木材は米国産ハンノキや欧州産カエデなどを用いた。注文客は、この作品を自宅のショーケースに展示しているそうだ。時々、手にとって演奏することもあるという。
ちなみにリッター氏は、大の日本ファン。かつて独国内で開かれた漆作品の展示会にも足を運び、「その美しさに感動した」そうだ。これまで2度日本を訪れたといい、「和食や日本文化に尽きない興味があります。できれば今年末にまた日本へ行きたい」と明かした。
人気の秘密は「世界に一つしかない楽器」
著者プロフィール
- シュピッツナーゲル典子
ドイツ在住。国際ジャーナリスト協会会員。執筆テーマはビジネス、社会問題、医療、書籍業界、観光など。市場調査やコーディネートガイドとしても活動中。欧州住まいは人生の半分以上になった。夫の海外派遣で4年間家族と滞在したチェコ・プラハでは、コンサートとオベラに明け暮れた。長年ドイツ社会にどっぷり浸かっているためか、ドイツ人の視点で日本を観察しがち。一市民としての目線で見える日常をお伝えします。
Twitter: @spnoriko