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パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです

RIKAママ|フランス

オリンピック効果を見込んだパリのホテルの大誤算

空いているパリを堪能している若い女の子たちが可愛い・・ 筆者撮影

フランスが総力を挙げて取り組んできたパリオリンピックが終わり、その総括的なことが少しずつ表面化してきています。パリという絶好のロケーションを存分に利用したオリンピックは、比類ない美しいものでもありましたが、問題視されたことも多々あったようです。それでも、特に中盤から後半にかけて、フランスチームがかなり活躍したこともあり、フランス国内では、オリンピックムードが高まり、もともと自画自賛が得意なフランス人のあいだでは、概ね良い解釈が大半を占めていますが、なかでも、このオリンピックに際して、オリンピック需要を最も期待していたホテル業界は、期待どおりの結果は得られなかったと見ています。

ダイナミックプライシングの失敗

そもそも、フランスはこのオリンピックで1,500万人~2,000人の観光客を期待しており、パリ及びパリ近郊のイル・ド・フランスには、13万室の宿泊施設があると言われています。その他、オリンピックのために動員される警察官、憲兵隊、公共交通機関の補助職員、オリンピックそのもののためのスタッフまで併せると、すべての人のための施設などが足りないのでは?とむしろ、宿泊施設が足りないことが心配され、ヴァンセンヌあたりには、オリンピックのために動員される警察官用のキャンプができたりしていました。

観光客が宿泊するであろうパリ市内のホテルは、ちょうどオリンピックまで一年を切った昨年の夏あたりから予約が始まり、パリ市内のホテルの価格が爆上がりするという現象がおきました。いわゆる需要と供給のバランスから価格を変動させるダイナミックプライシングがあるのは、いつものことなのですが、その価格高騰がダイナミックすぎて、パリのホテルの価格は前年の2倍、3倍はあたりまえ、なかには5倍、6倍、10倍以上などというものまであったりして、パリ15区のホテルでは前年同日の予約が一泊90ユーロであったものが、1,363ユーロにまで値上げした!というところまであったそうで、そのうえ、予約の段階で全額支払い、キャンセル不可・・なんていうものまであって、どう考えてもあこぎなやり方にもほどがある!と思ったものです。それでも、それがまかり通って、予約が殺到する!とパリのホテル業界は考えていたのです。

ところが、いざ、オリンピック目前になってみると、むしろ、観光客は例年よりも少なく、また、警備のための様々な規制等を嫌ってパリの住民たちは、パリを離れ、パリはガラガラの状態になりました。そもそも、通常通りの価格であったとしても、パリのホテルは決して安くはありません。そのうえ、メトロのチケットまでもが通常価格の倍近い価格に跳ね上がり、そのうえ、オリンピックのために様々な規制が敷かれているパリは、観光するにも動き辛く、費用もいつもの何倍もかかるとなったら、観光地として避けるのは当然のことで、よほどオリンピックに感心のある人ならばともかく、そこまでの代価を払ってまでオリンピックを観戦したい、自国の選手を応援したいという情熱とお金に余裕のある人はそうそう多くはなかったのです。

ふたを開けてみれば、パリはガラガラ、ホテルの予約も埋まらないホテル業界は全くの見込み違いで「冷たいシャワーを浴びせられた!」ともっぱらの評判でした。実際に我が家の近くにも2軒、中規模のホテルがあり、内心、「このホテルもオリンピックの頃にはきっと満室になるんだろうな・・でも、このホテルが満室になったら、最寄りのバス停など大変なことになるのだろうな・・気軽には外出できなくなるかもしれない・・」と思っていたのですが、若干、お客さんを見かけることはあっても、これらのホテルが満室になる様子は、オリンピック開催中、一度も見ることはありませんでした。

需要と供給に応じて、価格を変動させるダイナミックプライシングもこの値上げがあまりにもダイナミック過ぎると、機能しないうえに、印象は最悪です。そもそもが物価が高いパリ、宿泊施設の異常な高騰は致命的ですが、その他、なにをするにも異常にお金がかかります。今回のパリオリンピックでは、パリに四半世紀以上住んでいる私でも見たことがないほどの異常な警戒ぶり、パリ中心部は特に、数メートル歩くたびに警察官や憲兵隊の軍団とすれ違うくらい隙のない警戒ぶりで、駅やメトロの中にまで警察官がいるような状態だったので、むしろ、いつもより駅もきれいに保たれ、安全であったと思われますが、観光客には事前にはそんなことはわからないわけで、パリでホテルを選ぶとなったら、それなりの場所でなくては、治安の問題が不安だと思います。そして、そのそれなりの場所は、通常でも高いのに、その2倍、3倍の価格となれば、そんなバカらしい出費をしてまでオリンピックの時期にパリへ行こうとは思わない・・それでも行きたい!と思うほど、世間一般のオリンピックへの期待は正直、なかったわけです。

住民からしたら、交通規制などの不便はあるものの、こんなに空いているパリはそんなにあるものではなく、オリンピックに彩られた景色を楽しむことができたのは、幸いでしたが、ホテル業界にとっては、あまりに思いあがった大誤算であったに違いありません。

結果論ではありますが、このフランスが総力をあげて創り上げたオリンピックをできるだけ多くの人に見てもらいたいというパリ市全体の観光を将来のことも考えるならば、そこまでの値上げをせずに、できるだけ多くの人々に来てほしいともう少し謙虚なところがあれば、よかったのに・・そうでなくとも、お高くとまっていると思われがちなフランスの悪い印象がさらに誇張された気さえしてしまいます。

ベルサイユの移動カートの中で・・

私は特別にオリンピックに興味があるわけではありませんが、それでも、自分の住んでいる場所でオリンピックが開催されることなど、一生のうちに一度でもあるかないかのことで、一応、オリンピックに彩られた街の様子はひととおり見ておこうと馬術競技などをやっているベルサイユ宮殿に行ったときのことです。ベルサイユ宮殿など、旅行で行くほどの距離ではないにせよ、中途半端な距離でふだんは滅多に行くことがないのですが、久しぶりにベルサイユ宮殿に行ってみました。広い広いベルサイユ宮殿の中、オリンピックの競技をやっている場所はほんの一画で、中を延々と歩きましたが、途中、ボランティアの人が運転する小さな電気自動車が通りかかって乗せてくれました。ホッとしていると、ベルギーから来た観光客の家族が「一緒に乗せてください!」とやってきて、車の中でなんとなく、運転してくれているボランティアのおばちゃんとベルギー人の家族たちと宮殿の出口までの短い間、話をしました。

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彼らが「ベルギーから来ているんだけど、とにかく、ホテルが高くてそんなに長居はできない・・」とぼやいていましたが、そのフランス人のボランティアのおばちゃんが、「パリのホテルはガラガラらしいけど・・あまり儲けようとして欲ばるから、結局、こういうことになる・・欲張り過ぎて、この結果はみっともない・・」と呆れるように言っていました。今回のオリンピックのボランティアは、もちろん、全員と接したわけではありませんが、フランス人でもこんなに感じのよい人々がこんなにいるんだ!と思うほどに好感が持てる人が多かったのは、今回のオリンピックで最も好印象を持ったところです。彼らは進んで英語で話しかけて救いの手を差し延べてくれ、また話してみると、このおばちゃんのように至極、もっともなことを言うので、なんとなく、住民としてはホッとする気持ちになったものです。

結果的にオリンピック期間のパリのホテルの稼働率は・・

ともあれ、日頃、決して治安がいいとは言えないパリで、しかも、世界情勢も不安定ななか、行われたパリオリンピックでテロなどの大きな事件や事故が起こらず、無事に終了したことに何よりホッとしています。

当初は、「冷たいシャワーを浴びせられた」と言われていたパリのホテル業界も、中盤以降のオリンピックの盛り上がりに連れて、少し数字を取り戻し、稼働率は平均約85%程度であり、ホテル業界に笑顔が戻ったと伝えられています。パリ観光局は、外国人観光客がもっとも多く訪れた地区は、パリ15区(2023年比24%増)、8区(6%増)、9区(24%増)と発表していますが、この地域を見れば、これは、もう価格は全く関係ないほどの富裕層で占められたのではないか?と思われます。また、最高に増加したのは、パリ市内ではなくサン・ドニ(パリ近郊・イル・ド・フランス)の205%となっているのが、一番、現実感があるところです。サン・ドニは、大きなスタジアムのある地域であったことも大きな理由ではあると思いますが、恐らく何よりも価格的な問題も大きかったように思います。また、選手村のあった地域でもあることから、オリンピック関係者が多く滞在していたことも考えられますし、中には、選手村にエアコンが設置されていなかったことに音を上げた選手団の一部がホテルに移動したという話もあります。

サン・ドニは、通常ならば、もし、私の知人がパリに来るのにホテルをサン・ドニに取る・・などという話を聞いたら、「ちょっとやめておいた方がいいと思うよ・・」と絶対に言うと思うような決して治安が良いとは言えない場所です。そもそも、オリンピックのスタジアムをサン・ドニに!という話を聞いた時には、なんで、よりによって「サン・ドニ?」と思ったくらいです。しかし、あれだけの警戒体制が敷かれた中であれば、サン・ドニでも安全であっただろうとは思います。

しかし、結果的には、稼働率が平均85%だったということは、まったく最後までガラガラだったホテルというのもけっこうあると思われ、少なくとも我が家の近所の2軒のホテルは最後までガラガラのままだったと思います。これらのホテルが満室状態になることを見込んで、最寄りのバス停などは、大きく改築までして、混乱を避けるために迂回経路を取ったりしていましたが、全く、そんな必要はなく、何の混乱もなく、ただただ不便な思いをしただけでした。

パンデミックで一時、観光客がゼロになった時期もあり、オリンピックで巻き返しを!と思っていたホテルは少なくないと思われますが、欲張り過ぎたおかげで、起死回生のこの機会を失ったホテルもパリには少なくないのではないか?と思われます。8月のパリはパラリンピックを控えているとはいえ、いつもよりもずっと静かです。

 

Profile

著者プロフィール
RIKAママ

フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。

ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」

Twitter:@OoieR



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