パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです
年末にかけてのフランスはデモ・ストライキの波 ストライキは必要か?
フランスでは、例年ならば、新年度(9月)の開始とともに、続々と起こるデモやストライキが今年は、新政府が誕生するのに時間がかかったこともあり、肝心の政策や予算案に基づく政府の方針や変更事項の提案が遅れ、それにつれて、デモやストライキの時期がずれ込み、11月後半から12月にかけての各方面でのデモやストライキの予告が目白押しに発表されています。
SNCF(フランス国鉄)、RATP(パリ交通公団)、航空業界、FNSEA(全国農業経営者組合連合会)のストライキ・デモ
11月半ばから、それぞれのストライキの予定でほぼ連日が埋まるような日程でのストライキに一般市民としては、めまいがしそうな年末を迎えようとしていますが、その多くは、今期政府が掲げている「600億ユーロの赤字是正」のために、行われる政策に反対するもので、例えば、SNCF(フランス国鉄)などに関して言えば、今回のストライキは、フレットSNCF(主に貨物輸送を行っている)と呼ばれる部門を解体、分社化し、段階的に民営化することに反対するもので、国鉄民営化の一部の措置に反発するものです。今回のSNCFのストライキは、まず11月21日のストライキを予告し、この日を最後通牒の日とし、これで交渉が決裂すれば、12月11日からは無期限ストライキに突入するという強硬な姿勢を示しています。
これに対して、経営陣は、「我々は、SNCFの民営化のプロセスにある。低強度で、慎重に、小さなステップで、まず子会社を経由して、民間企業に移行していく。1994年のイギリスのように、一度に全てが進むわけではなく、段階的に進んでいるのだ!」と、こちらもなかなか相容れない態度を崩しません。
また、航空業界のストライキは全国路線操縦士組合・パイロットのストライキで、これは、政府が財政赤字のために予定しているフランス離発着の航空便に対する連帯税を3倍に引き上げることに反対するものです。こちらは、段階的どころか、一気に3倍に引き上げるというのですから、大変なことですが、政府は、これにより、10億ユーロの追加税収を見込んでいます。
この中でも、もっとも痛ましい印象を受けるのは、農業に関わる人々のストライキ、というよりは、こちらは、デモが主なアクション(道路の封鎖などを含む)であるとは思うのですが、彼らは気候変動のために起こっている水害などから被っている不作などのために、国からの保証付き融資の拡大を求め、EUメルコスール(南米南部共同市場)自由貿易協定がフランスの農業にとって、圧倒的に不利なものであるとして、強い反対を訴えています。
彼らは、今年の年初に国際農業見本市前後に、農業の苦しさを訴え、ランジス市場への道路を封鎖したり、見本市会場前に農業用トラクターなどを並べて、デモンストレーションを行い、マクロン大統領と農民たちが直接、対峙するといった緊迫した場面がありました。この後、政府は、農業従事者に寄り添うための回答を提示しましたが、まだまだ、充分ではないどころか、EUメルコスール(南米南部共同市場)自由貿易協定なども締結寸前のところまで迫っており、この行方を握っているとも言われるブラジルで行われるG20の日程を考慮しつつ、計画されているものと言われています。
フランス人にとってのストライキと教育
私がフランスに来たばかりの頃、あまりに度重なるストライキに嫌気がさして、私は「まったく、この国は、なにかと言えばストライキばかり!駄々をこねるみたいなことばかりではないか!しっかり働いて、やることやってから文句言えっつーの!」と思っていました。ある時、フランスに来たばかりの私たちを歓迎してくれたフランス人の夫の友人夫妻が家に招いてくれて、奥様のご自慢の手料理を振舞ってくれました。その際に、「フランスに来たばかりで、フランスについて、どんな印象を持った?何に驚いた?」とご主人に尋ねられたので、私は、迷うことなく、「デモとストライキ!」と即答したら、「そうなんだよ!フランスは民主主義の国なんだ!デモの国・ストライキの国なんだ!」と、思いのほか、満足気であったことが、二重に私を驚かせたのです。
それくらい、フランス人は、デモやストライキをすることに誇りを持っているし、また、国も国民の「デモをする権利」、「ストライキをする権利」を尊重しています。あまりに騒動が大きくなり、暴動のようになりつつあっても、政府は、その警備に大変な予算を割くことがあったり、時には、戦車のような車まで登場したりして、ギョッとさせられることがあったとしても、この国民の権利を守る姿勢は崩しません。また、政府は政府でこの国民の権利を守っていることに誇りを持っていると感じることすらあります。
デモやストライキについて、「どうしたら、こんなに国家に浸透するものなのだろうか?」、「フランスでは学校でもデモを教える授業があるのだろうか?」などと思ったこともありましたが、学校では主張することを教え、それを家庭での教育が支えている・・そんな気がします。実際に、史上最年少の首相として、一時?もてはやされた前首相のガブリエル・アタル氏は、自身が政治家を志すきっかけとなったのは、「家族でデモに参加したこと」と答えており、デモを政治の一部、一端であると考えていることがわかります。
昨年、「東京の百貨店が60年ぶりのストライキ!」というニュースがフランスで話題になったことがありました。それくらい、日本でのストライキは稀なものになっているのに私も驚きました。フランスでは、ストライキはことさら珍しいニュースであり得るわけはなく、日本でのこの60年ぶりと言われる百貨店のストライキに、「日本のテレビは、ヘリコプターまで飛ばして、ライブ中継も含めて報道している!」と、日本ではどれだけ、ストライキが珍しいものであるかを伝え、なかには、タイトルに「日本人もフランス人のように抗議せよ!」なんて掲げている報道もありました。
正直、私もそう思います。「いいかげん、黙って我慢ばかりしていないで、もっと日本人も抗議しなきゃ!」と。
しかし、この事態を生んでいるのは、日本の教育だとも思うのです。目上の人などを敬う気持ちは尊いものである一方、言われたことに従順に従うように植え付けられているのが日本の教育です。逆にフランスの教育は、自分の意見を持ち、意見を戦わせることを美徳とするようなところがあります。授業も討論、または、論文形式の課題がより多くあるような気がします。実際には、理屈が先だって、やることがなってない・・ということも多いのですが、とにかく、その整合性は別として、すべからく口が達者で、要求ばかりが先に立つきらいがないでもありません。
とはいえ、言うべきことは言わないと伝わらないし、無視されます。デモがある意味、政治の一環であるということは、権力者を国民が監視しているということを国民の一人一人が集まって表明する行為でもあります。
とはいえ、実際に生活していれば、「もう、いいかげんにして!」と思うことも多いフランスのデモやストライキではありますが、抗議すべきことは山ほどあるのに、ストライキが60年ぶり!なんて騒がれるのもまた、健全な社会ではないような気もするのです。
著者プロフィール
- RIKAママ
フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。
ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」
Twitter:@OoieR