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スペインあれこれつまみ食い

松尾彩香|スペイン

オーバーツーリズムの波はスペインにも 各都市で規制の波

©️YouTube - Batacazo del turismo de calidad en Barcelona

現在日本で大きな問題となっているオーバーツーリズム(観光公害)。地元の住民の生活に支障が出たり、観光客のマナーの悪さが目立ったりと、これらの話題についてメディアやSNSで頻繁に目にするようになりました。私が住むスペインでも日本は最も人気がある旅行先のひとつ。私の身の回りでも日本に旅行に行ってきたという人が去年あたりから次々と現れ、また「知り合いが日本に今度旅行に行くのだけれど、どこかオススメはないか」という質問も頻繁に受けるようになりました。まだ日本に行ったことがないというスペイン人でも「必ず近いうちに日本を訪れたい」とか「今日本に旅行に行くために貯金をしているんだ」とわざわざご丁寧に報告してくれる人は数えられないほどいます。本来スペイン人は訪れやすいヨーロッパ諸国内を旅行することが多いのですが、パンデミックの間お金を使う機会があまりなかった事でまとまった貯金ができたことから遠く離れた日本まで足を伸ばしてしまおうというスペイン人が多いようです。先日、消費者・利用者機構(OCU)が発表した調査結果によると、スペイン人が旅行に行って満足度が高かった国第1位に日本が選ばれました。「文化が豊かで、親切で、安全で、さまざまな買い物ができる」というのが選ばれた理由。観光客が溢れることによって引き起こされる騒音やゴミ問題、また街が観光地化されることよって日本の本来の姿が失われてしまうことなどが日本人の間で懸念される中、それでもなおスペイン人をはじめとする外国人にとって日本は魅力的な観光地の一つであることに変わりはないようです。さて、世界にとって魅力的な観光地として名前が上がるのはスペインも一緒。実はスペインでも今観光客が増加しており、各地で規制が敷かれたり住民が抗議したりとオーバーツーリズムの問題が深刻化しています。

 

増え続ける観光客

ソニー銀行が行った調査で日本人が行きたい国ランキング5位にランクインされたスペイン。観光地として魅力があるスペインでは観光客の数は年々増え続けています。世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)は、2024年までに観光部門がスペイン経済の15%を超えると予測しており、さらに今後10年でその割合が17%まで増加するのだそう。特にヨーロッパの中でも気候がよく物価が低いスペインはヨーロッパ各国の人々にとって最高の旅行先。特にビーチがあるスペイン南部や島には夏に外国人がどっと押し寄せるのです。

 

カナリア諸島で連日行われるデモ

北西アフリカ沖に位置するスペインのカナリア諸島。ここでは4月頃からオーバーツーリズムに抗議するためのデモが頻繁に行われています。彼らが訴えるのはオーバーツーリズムによる社会、労働、環境に関する悪影響に何かしらの対策を打って欲しいということ。 観光業が主な産業の一つとなっているカナリア諸島では10人に4人が観光に関わる職業についていると言われています。去年は1700万人もの観光客がカナリア諸島を訪れ記録的な経済効果を産み出しましたが、カナリア諸島の住民の貧困率は一向に高いまま。また、これまで人々の住居として提供されていたアパートなどがAirbnbなどの観光者用の宿泊施設として使用されるようになり、カナリア諸島での賃貸物件が激減していることも問題として挙げられています。彼らは観光客をしっかりとコントロールし、住民の生活を尊重することを求めているのです。

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©️YouTube - Los canarios reclaman un turismo sostenible para sus islas

 

民泊問題は別の地域も・・・

一般民家が民泊化していく現象はスペイン全土で広がっています。地中海に浮かぶバレアレス諸島の島のひとつマヨルカ島でもこれに対する抗議デモが先月行われ約1万人が参加しました。観光地として人気の高いマヨルカ島では民泊の影響で賃貸物件が減少し、今ではひとつの物件に142人も入居希望者が現れるというのです。家賃もこの10年で158%上昇し、島民の生活を圧迫しています。

一方首都マドリードの中心地では10戸のうち1戸が民泊となっており、芸術家ピカソの故郷マラガに至っては4戸に1戸が民泊として使用されていると言います。スペインで一般民家を民泊として使用するためには日本同様に届け出をする必要がありますが、こういった事態を防ぐためにあらゆる都市でこの届け出の受付を一時休止するという措置が取られました。しかし実際多くの民泊は届けを出さず違法で営業をしていると言われており、一部の地域の市長はこういった違法民泊の厳しい取り締まりを求めています。

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マヨルカ島のデモ行進©️YouTube- Why residents of Spain's holiday hotspot Mallorca want tourists to stay home | DW News

 

お土産屋さん規制

キリスト教徒の聖地と言われているサンティアゴ・デ・コンポステーラ。スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)のゴールとなるこの街には巡礼の旅を終えた巡礼者たちで常に溢れかえっています。一番有名なフランス人の道と呼ばれる巡礼路は約800km。1ヶ月かけてようやく巡礼を終えた巡礼者の中には歓喜の雄叫びをあげる人がいたり、祝杯を挙げベロベロに酔っ払う人がいたりと、気持ちは分からんではないですが住民にとっては迷惑な行動をとる人らも少なくはないようです。まだ古代の面影が残るこの街にも、ついにオーバーツーリズムに関係する規制が敷かれることが決定しました。1985年にUNESCO世界遺産に登録された美しいサンティアゴの旧市街。パン屋や仕立て屋など、住民たちの暮らしの中心であったこの旧市街で近年お土産屋さんが急増しているというのです。観光客をターゲットとした商売が増えることで住民たちがこれまで代々利用してきたお店が減少しつつあることに危機感を感じた市は、今後1年間観光に関係する商売の新規許可証を発行しないことを発表しました。これにはお土産屋さんをはじめ、両替所、フリーツアー、観光者向けのレストランなどが対象となります。

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長旅を終えた巡礼者たち©︎YouTube - ► SANTIAGO DE COMPOSTELA Guía de viaje #214

日本でも、京都で地元の人が行くような漬物屋さんがアイスクリーム屋など観光客をターゲットしたお店にどんどん変化していっているという話を聞いたことがあります。観光客が訪れることは経済的にはプラスになることではありますが、地元の人々の生活を保護しつつ観光者らが満足できるような規制を設け持続可能な観光地づくりをすることは必要不可欠なのではないでしょうか。こんな不安定な時代ですので、経済効果を狙って観光客をどんどん受け入れることは大切ではあるかもしれませんが、それによって地元の人が犠牲になったり本来の日本らしさが失われていくことはあってはならないことだと思います。

 

Profile

著者プロフィール
松尾彩香

2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。

Twitter: @maon_maon_maon

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