２３日、スペインで総選挙が行われました。統一地方選挙で与党が大敗したことを受け大幅に前倒しになった今回の解散総選挙。ヨーロッパが右傾化していると言われる中、スペインでも右派への政権交代の可能性が高いと噂されていた事から他国からも注目を集める選挙となりました。
即日開票の結果、野党の中道右派・国民党が獲得議席１３６でトップに。現在政権を握る中道左派・社会労働党は１２２議席と僅差で国民党より少ない議席数で幕を閉じました。スペインで政権を握るためには獲得議席が過半数(１７６議席)を超えていることが条件。今回の結果ではどの政党も議席数が過半数に達していないため、社会労働党の続投か国民党に政権交代するかはこれから行われる他党との連立交渉が鍵になってきます。

選挙結果と各党首の演説

第１党　国民党（中道右派）１３６議席

２０１９年の８９議席から大きく飛躍した国民党(PP)。快勝だった統一地方選挙の結果から今回の選挙で政権奪回を期待されていましたが、過半数には届きませんでした。社会労働党は連立して政権維持をめざしていますが、国民党も同じく他の政党との連立で対抗する姿勢を見せています。

フェイホー党首「ありがとうスペイン。前回の総選挙での勝利から７年、国民党は再び返り咲きました。前回の得票率２１％にも満たなかったところから３３％にまでにまで成長したのです。５２のうち４０の州と自治体で勝利を収め、上院の議席数は過半数を占めています。我が党は今までの選挙でここまで飛躍したことはありません。１年半前はこの様な結果が出ることは不可能だと思えていました。すべての国民党支持者に感謝を申し上げます。」「私は多数派の意思に沿った政権樹立に向けて対話を始めます。敗北した政党、つまり社会労働党にお願いしたい。スペインの政治を再び妨げるようなことはしないでください。これまでスペインに、敗北した後に政権をとった首相はいません。」

第２党　社会労働党（中道左派）１２２議席

２０１９年の１２０議席から２議席伸ばした与党、社会労働党(PSOE)。「持ち堪えた」と各紙で報じられています。第２党ながら政権維持の可能性が高いためか、党首でもあるサンチェス首相は投票日の夜、勝利を確信した演説を行いました。

サンチェス首相「模範的で民主主義的な行動を示してくれたすべてのスペイン人に感謝します。我々は世界に力強くクリーンな民主主義国家であることを示しました。」「我々は前進するか、国民党やVOX党と共に後退するかを選ばなければいけませんでした。この４年間の進歩を壊そうとしてきた後進的集団の攻防は失敗したのです。彼らは敗北しました。私たちはスペインに前進し続けることを望んでおり、これからもそうあり続けるでしょう。」

第３党　VOX党（極右派）　３３議席

２０１９年の５２議席から１９議席も減らしてしまったVOX党。LGBTコミュニティや移民に背を向け、安楽死や中絶手術の違法化を公約として掲げていました。コアな支持者も多いVOXですが、約５０年前のフランコ独裁政権時代を彷彿させる姿に彼らを警戒する国民もまた多くいます。

アバスカル党首「まず、フェイホー氏の勝利を祝福します。多くのスペイン国民にとってとても悪いニュースとなるのが、ペドロ・サンチェスが敗北しているにも関わらず右派政権誕生を妨害してくる可能性があることです。それだけではなく、彼は共産主義や独立主義、テロリストたちの力を借りて再選するかもしれないのです。」「最も大切なのは３００万ものスペイン人が我々を信じてくれ、VOX党を第３党に持ち上げてくれたことです。私たちは彼らを失望させません。私たちは抵抗し、対立や再選の準備は整っています。」

第４党　Sumar党（先進左派）３１議席

様々な左派政党が集結して新たに結成されたSumar党。党首は現副首相でもあるヨランダ・ディアス氏が務めます。結果は第４党に終わりましたが、社会労働党と連立を組んで政権を握れる可能性も高いとしてこの結果にディアス氏は満足している様です。

ヨランダ・ディアス党首「Sumar党を信じてくれたすべての人に感謝しています。ありがとう。今日、人々は私たちの国でより安心して眠ることができるでしょう。民主主義は今日勝利を収め、より強いものになりました。明日からさっそく民主的で先進的な党たちとスペインの政治を保証するための話し合いを進めていきます。」

国民党と社会労働党　両党の連立の可能性

政権交代を狙うPPこと国民党（中道右派）が過半数の議席に達するには４０議席不足しています。VOX党と連立を組んでも１６９議席となり、過半数の１７６議席には届きません。中道右派のナバーラ住民連合やカナリア人民党と連立交渉を進めていく予定ですが、それでも１７１議席で過半数には届かないのです。

一方、政権を維持したいPSOEこと社会労働党（中道左派）が過半数の議席に達するには５４議席足りません。Sumar党と連立しても１５３議席となり、政権獲得にはもう２３議席必要となります。その他の左派政党であるカタルーニャ共和主義左翼、バスク統一党、ガリシア民族主義ブロックとの連立交渉に成功したとしても１６７議席となり、国民党同様に過半数には届かないのです。

連立の鍵を握る？バスクとカタルーニャ

残る議席は右派や左派というイデオロギーに属さないバスク民族主義党の５議席と、２０１７年違法にカタルーニャ独立宣言を行い現在国外に逃亡しているカルラス・プッチダモン氏が率いるジュンツ党の７議席。両党ともVOX党とは対立しているため、VOX党と連立を組むことを可能性に入れている国民党の連立交渉を受け入れる可能性は低いでしょう。つまり国民党はどの方法をとっても連立交渉だけでは政権を握ることが難しいということになります。

では、社会労働党とはどうでしょうか。バスク民族主義党が社会労働党との連立に同意する可能性はあるものの、バスク民族主義党の議席だけでは過半数に達することはできず、国民党に勝利するためにはジュンツ党との連立も不可欠になってきます。しかしジュンツ党はサンチェス首相を支持していない上に、連立と引き換えにカタルーニャ独立を後押しするための無茶な条件を提示してくる可能性も高く、ジュンツ党との連立は社会労働党の政権維持には欠かせない一方でとてもリスクの高いものになってしまいそうです。

海外に住むスペイン人たち

実は現在「開票結果」として公表されている投票数には、海外に住んでいるスペイン人が在外選挙で投票した票がまだ含まれていません。その票数は実に２３３万票。この開票の結果で劇的に状況が変わるとは考えにくいですが、在外スペイン人の票が最大で９議席を動かすと言われており、場合によっては連立などに影響を及ぼすかもしれません。開票作業は今週金曜日の朝に行われます。

再選挙の可能性も

この様な状況から今回の選挙はとても複雑で、すんなり勝敗が決まる結果にはなりませんでした。どうしても政権維持したいサンチェス首相は「再選挙は行わない」と現段階で断言していますが、このままズルズル長引くと再選挙は避けられないかもしれません。

ヨーロッパの右傾化が世界で話題になっていることからスペインでもあっさり右派政権が誕生するかと思いきや、「自由で先進的なスペイン」に誇りを強く持った左派の支持はまだ根強いようです。しかし５月に行われた統一地方選挙の結果から、この４年間で左派の勢力が衰えてきていることもまた事実と言えるでしょう。右に左に揺れるスペイン。どちらに軍配が上がるのかは今の段階では誰にも想像ができません。