スペインあれこれつまみ食い
陽気なスペインが静寂に包まれる 今年のセマナサンタは大盛況
スペインでは今年もセマナサンタ(聖週間)と呼ばれる宗教行事が行われました。スペインではイエス・キリストがエルサレムに入城し、受難、その後復活するまでの1週間をセマナサンタと呼び、その週は毎日国内各地でプロセシオンと呼ばれる宗教行列が行われます。日本でもアメリカのイースター(復活祭)の影響を受けて、近年これらの日にはウサギや卵の可愛いデザインのお菓子や雑貨が売られたり、テーマパークではウサギに扮したマスコットがダンスを踊ったりと少しずつイースターの文化が定着しつつある様ですが、スペインや中南米の信者の間ではこの1週間をイエス・キリストが受けた苦痛を再確認する期間としており、日本で認識されている様なポップで可愛いイメージの行事とは少し異なります。
静寂の中運ばれていくキリスト像
セマナサンタの見ものはなんと言ってもプロセシオン。プロセシオンでは街の各教会が所有しているキリストやマリアの像をコスタレロと呼ばれる人たちが担いでゆっくりと行進をし、その後ろにはオーケストラたちが生演奏をしながら町中を練り歩きます。この像が乗った山車の重さは1,000キロを超えることも珍しくなく、コスタレロたちはキリストが受けた肉体的な苦痛を肩にずっしりと感じながら何時間にもわたって行進するのです。
行進のスタイルや歩き方などは各自治体によって個性がありそれぞれ異なります。私が住む街では、これらの山車の後ろを十字架を背負い足に鎖をつけた人たちが行進しており、なんともいえない異様な空気が漂っていました。セマナサンタは「人類の罪の身代わりとなって処刑されたキリストの苦痛を感じる期間」。これだけ豪華な山車が音楽に合わせて行進していても、お祭やパレードとは違い人々は静かにその様子を見守るのです。
多くの人にとっては春休み
スペインは人口のほとんどがカトリック教徒ではありますが、信仰熱心な人の割合は年々減ってきている様です。このセマナサンタの連休も、多くのスペイン人にとっては楽しみにしていた春休み。長く続いた冬の寒さから解放され、海や山に出かけるスペイン人はとても多いのです。「いつもは行けないところまでこの連休を利用して足を伸ばし、旅先のプロセシオンを見て春の訪れを感じる」というのが、スペイン人流の春の楽しみ方なのかもしれません。
歴史的!今年のセマナサンタの経済効果
コロナウイルスの感染拡大防止対策が完全に撤廃されて初めてのセマナサンタということもあり、今年の連休には例年よりも多くの国民が旅行に出かけた様です。特に行き先として人気だったのは南部の海岸に面するアンダルシア州で、この州にはセマナサンタの期間中に100万人もの観光客が訪れました。同州のフアンマ・モレノ州首相は「アンダルシアの歴史上で最高のセマナサンタだった」と振り返っています。ヨーロッパの中でも気温が高いスペインの南部は海外からの旅行客にも大人気。コロナウイルスの規制がなくなり出入国が容易になったことで多くの外国人旅行客がスペイン南部に押し寄せました。
一方この時期、観光客が激減してしまいがちなのがマドリード。マドリードは首都でありながら海に面していない内陸に位置するので、気温が上がって暖かくなってくるとたとえ首都であっても観光地としては不人気なのです。しかし今年のマドリードは例年と違って予想より多くの観光客が訪れたようで、ホテルの稼働率も予想されていた65%を上回り80%の稼働率を記録しました。
また今年のセマナサンタでは小さな村も人気の旅行先となったようです。都会の喧騒から離れて家族でゆっくり過ごしたい人にとって自然に囲まれた静かな村は絶好のバケーションスポット。今年は稼働率が80%を超える村が続出し、普段は閑散としている田舎にが活気にあふれました。
インフレの影響を受けつつも・・・
今年のセマナサンタは例年より気温も高く天候にも恵まれ、多くのスペイン人が快適な連休を過ごしました。世界的に起きている価格の高騰で、宿泊料は去年と比較して多いところで22%の値上がり、レストランも8%ほどの値上がりがあったようですが、3年ぶりの感染対策が完全に撤廃されたコロナウイルスの存在を全く感じないセマナサンタということで、旅行者はいつもより解放的な気分で連休を楽しんだようです。
セマナサンタは欧米のイースターとは異なり宗教色のかなり強い行事。この期間は国全体で大規模なミサが行われていると言っても過言ではないほどで、お酒とパーティが大好きなスペイン人が静寂の中で行う数少ないイベントと言ってもいいかもしれません。スペインの春の風物詩、セマナサンタ。この時期にスペインに来れば、いつもと違ったスペインの顔が見ることができるでしょう。
著者プロフィール
- 松尾彩香
2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。
Twitter: @maon_maon_maon